映画版からのゲストと受け継がれる「ファミリー」の血

予想で楽しめる余地としては、映画版キャストのゲスト枠もある。S1では映画版で今なお色褪せることのないアイコニックなウェンズデーを演じたクリスティーナ・リッチが、ウェンズデーを気にかける寮母マリリン・ソーンヒルを、S2では一家に騒動をもたらした怪人物フェスターおじさんを演じたクリストファー・ロイドが、頭部だけが水槽に入った状態で生きているオルロフ教授を演じた(バートン作品の文脈で言えば、実現しなかった幻の企画『スーパーマン リブズ』で登場するはずだった悪役ブレイニアックのデザインを彷彿とさせる)。
かつてアダムスを演じたレジェンドたちが顔を見せることで、その精神の継承を思わせもするが、特にリッチの役柄が意味するところは大きい。のけ者ではないNormieの寮母ソーンヒルはウェンズデーの理解者を偽りながらも、事件の黒幕にしてのけ者の絶滅を願うピルグリムの末裔であり、ウェンズデーとピルグリムの宿命的関係が映画版『2』から続くものと考えれば(感謝祭をテーマにしたサマーキャンプの劇で、ポカホンタス姿のウェンズデーが入植者役のこどもたちに逆襲する場面は劇中のハイライトのひとつである)、先輩ウェンズデーのリッチがその宿敵を演じるという形になり、新旧の引き継ぎとしておもしろい構図だ(決して旧キャストがよき指導者役などにはならないところがアダムス・ファミリーらしいではないか)。
S1の顛末により精神科病院に収容されたソーンヒルは、S2でも再登場し、ウェンズデーの侵入により混乱に陥った病院の廊下でふたりは思いがけず遭遇する。このとき、ソーンヒルが物語の進行とは逆を示す左奥方向、ウェンズデーが未来に進む右手前方向に走ってきてすれ違うという見せ方がなんとも意地悪く、そして見事である。その瞬間、新旧ふたりのウェンズデーは顔を合わせるが、そのままそれぞれの思惑のため反対方向へと遠ざかっていく。一度ソーンヒルが正面から映り、ウェンズデーが奥へ向かっていく構図にはなるが、最後にはウェンズデーが正面に、ソーンヒルはこちらに背を向けて画面奥へと走り去っていく。バトンはとっくに渡されていたが、非常にこのシリーズらしい過去と未来との交差ではないだろうか。ソーンヒルがそのまま退場するだろうということも十分に暗示されている。潔いフェードアウトである。
さらに映画版キャストが登場するなら、個人的には前述した『2』のジョーン・キューザックや、サマーキャンプのリーダーだったピーター・マクニコル、クリスティーン・バランスキーといった非アダムスの脇役にもまた出てきてほしいのだが、おそらくラスボス的に期待されるのはモーティシア役だったアンジェリカ・ヒューストンではないだろうか。旧キャストによる校長役というのも十分あり得るところだが、いずれにせよ本作は原作漫画のみならず、1960年代のTVシリーズ以来の実写版イメージを更新し決定づけた、かつての映画版へのリスペクトも忘れない。ついでに言えば、S2ではウェンズデーの弟パグズリーが、晴れてネヴァーモア学園に編入してレギュラーメンバーとなるが、演じるアイザック・オルドネスは映画版で父ゴメズ役を演じた故ラウル・ジュリアに似ていることも話題になった。ジュリアの若い頃と比較するとそれはより際立つようだ(反対に、ということもないが、本作でルイス・ガスマンが演じたゴメズは原作漫画を彷彿とさせる風貌に寄せられている)。
原作、旧映画版を含めた「アダムス・ファミリー」という一族の血をしっかり受け継ぎ、長女にフォーカスすることでその世界を拡張させた本作は、バートンとアダムスのコラボレーションとしてついに実現した作品でもある。1991年の最初の映画版はソネンフェルドが抜擢される前にはバートンに打診があったものの、『バットマン リターンズ』(92)の撮影と重なっていたために辞退。また2010年代初頭から準備されていたストップモーション・アニメーションの企画も頓挫してしまう(2019年公開のCGアニメーション版がこのときの企画の最終的な形にあたる)。映画版辞退から本作S1までおよそ30年、ようやく実現したバートン版アダムス・ファミリーは、連続ドラマの学園探偵ものというフォーマットにより、全く新しい物語を見せてくれただけでなく、アダムス家という存在を再定義し、またバートン作品の中で綿々と生き続けるのけ者愛が結実した作品となった。
ともに本作を手がけたアルフレッド・ガフとマイルズ・ミラー、そして主演のジェナ・オルテガとは、S1~2の合間に『ビートルジューズ』(88)の36年ぶりの続編を生み出すことになるのだが、それはまた次回。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵、絵本など。映画のイラストレビュー等も多数制作中。
 
                                
                
