『チャンス』あらすじ
数十年間屋敷の庭師を務め、一歩も外に出たことがないチャンス。ある日、屋敷の主人が亡くなると、管財人に出ていくように言われる。街に放り出されたチャンスは、あちこちで見かける物珍しいものに気を引かれていると、一台の高級車と接触してしまう。それをきっかけに財界のドン、ベンジャミンと知り合う。
Index
ピーター・セラーズ、起死回生の1作
サム・メンデス監督が初めて単独脚本に挑戦した最新作『エンパイア・オブ・ライト』(22)には、監督が青春時代に熱中した70年代後半~80年代を彩った映画が様々な形で登場する。その中のひとつに、映画館”エンパイア劇場”で長年受付を担当していながら、これまで一度もそこで映画を観たことがないという主人公ヒラリー(オリヴィア・コールマン)のためだけに、映写技師のノーマン(トビー・ジョーンズ)が特別上映会を催す映画がある。ヒラリーはその映画のエンディングを見つめながら、まるで心の中の霧が晴れたかのような清々しい表情を見せるのだ。その映画とは、イギリスを代表するコメディアン、ピーター・セラーズが一世一代の名演を見せる、ハル・アシュビー監督の風刺コメディ『チャンス』(79)だ。
『エンパイア・オブ・ライト』予告
『チャンス』はセラーズにとって、まさに起死回生の1作だった。『ピンク・パンサー』シリーズ(63~82)とスタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』(64)を除いて、出演作はほぼ失敗に終わっていたセラーズが、イェジー・コシンスキの原作に惚れ込み、映画化に動き出したのは1970年頃。セラーズは原作を手にハリウッドのメジャー各社を行脚するが、どこも食指を動かさなかった。なぜなら1970年代後半の時点で、セラーズのキャリアはどん底にまで落ち込んでいたからだ。そんな中、人気TVシリーズ「ダラス」(78~91)で知られるTV番組制作会社、ロリマー・プロダクションが手を上げたことで、セラーズの長い旅路はようやく終わりを告げる。
稀代のコメディアンを魅了し、『エンパイア・オブ・ライト』の孤独な映画館の受付係の萎れた心を癒した映画『チャンス』とは一体どんな映画なのか。