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すべてがクライマックスの人生
努力して手に入れた成功をすべて手放すようなロマン。シャボン玉のように弾けて消えてしまう人生。デイミアン・チャゼルが『バビロン』(22)で描くのは、熱病のような高揚感に煽られたスクリーンの天使たちによる急上昇、急下降の人生だ。いずれ自分の存在が消えてしまうことが分かっているからこそ、本作の登場人物たちは最後のパーティーを繰り返す。すべてが人生のクライマックスであるかのように。狂騒の20年代。黄金の煌びやかさに彩られた狂乱のパーティー。ようこそクソまみれ、ゲロまみれのハリウッドへ!
パーティーのために用意された象をトラックに載せて運ぶ冒頭シーンは、清濁を同時に呑み込んでいく本作の基調をよく表わしている。重量に耐えられなくなったトラックは坂道を逆行する。必死にトラックを支える運び屋。次の瞬間、象の糞が大量に放出され、登場人物だけでなく、カメラのレンズごとクソまみれになってしまう。パーティーのために象を用意するというクレイジーな贅沢とレンズにこびりついたクソ。吐き気をもよおすほどウットリするショービズの世界、その裏側。吐瀉物の中でキラメク人生。スクリーンに約束された不老不死の契約。まるで悪魔の契約の代償であるかのように、彼らは爆発的なスピードで破滅的に人生を生き急いでいる。それがいかに悲惨で、いかに素晴らしいものであったか。過剰であることを愛する映画。デイミアン・チャゼルは、この時代のスターたちによる不完全さにとめどない愛情を注いでいく。
『バビロン』(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ジャスティン・ハーウィッツの手掛ける本作の素晴らしいスコアは、同じテーマを別のアレンジで響かせていく。感傷が滲むシーンではどこまでもメランコリックな響きに。ラテンのリズムを加えるときは獰猛なくらいワイルドな響きに。そしてこのメインテーマには歌が乗ることもある。その時々の状況によって響きを変えていくという意味で、デイミアン・チャゼルが愛するジャズを映画によって表現する試みであり、それぞれの響きのどれもが、いつまでも胸に残り続ける。胸が張り裂けそうになるくらいだ。