※2019年2月記事掲載時の情報です。
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デイミアン・チャゼル監督の新しい挑戦
高圧的な教員とジャズドラマー志望の学生との奇妙な関係と闘いを描いた、過激な一作『セッション』(14)で一躍話題となり、L.A.で夢に生きる男女を美しくも切なく描いたミュージカル『ラ・ラ・ランド』(16)では、最年少でアカデミー賞監督賞を受賞したデイミアン・チャゼル監督。いま最も勢いに乗っている彼の新作『ファースト・マン』は、いままでの作品とは全く異なる内容だ。それは、人類史上最初に月面を歩いた宇宙飛行士ニール・アームストロングの物語である。
もともと本作は、クリント・イーストウッド監督によって撮られるはずの企画だったが、長い間凍結されていた。これまでチャゼル監督は、自分で脚本を書いて、自身を色濃く投影した内容の作品を撮ってきたが、今回はそんな経緯もあって、はじめて脚本を他の脚本家に任せている。アカデミー賞で作品賞・脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』(15)のジョシュ・シンガーである。
それを聞くと、本作はチャゼル監督の作家性がこれまでより薄いものになっているのではと想像できる。だが、その予想に反し、本作の内容は前2作に比べても、より挑戦的なものになっていた。ここでは、『ファースト・マン』の何が凄いのかを、じっくりと考察していきたい。