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『インターステラー』を生んだ高度な物理学と、徹底したノーランの実写主義

『インターステラー』を生んだ高度な物理学と、徹底したノーランの実写主義

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『インターステラー』の科学的背景



 『インターステラー』という作品は、ちょっと変わった成り立ちを持った映画だ。そもそものきっかけは、コーネル大学惑星研究所所長で、NASAにおける惑星探査計画の指導的役割を担ってきた天文学者のカール・セーガンが、「コンタクト」(新潮社, 86)(*1)というSF小説を85年に執筆したことから始まった。

 セーガンは物語の中で、「主人公をいかにして相対性理論に矛盾することなくヴェガ星まで輸送するか」について悩んでいた。それまでもSF小説やSF映画では、ワープ航法などのアイデアが当たり前のように用いられてきた。だがセーガンは、それにきちんとした科学的裏付けを求めたのである。

 そこで、カリフォルニア工科大学の理論物理学者キップ・ソーン(*2)に助言を求める。SFでワープに利用されるワームホールは、一般相対性理論から導き出されるが、実際に存在していたとしてもサイズは量子レベルであり、ごく短時間で消滅してしまう。ソーンはセーガンのアイデアを検討し、人間が通過可能なワームホールについて考察を始める。彼は大学そっちのけで山籠もりしてこの研究に打ち込み、周囲の人を心配させるほど真剣だったそうである。

 ソーンはこの理論を88年と91年に論文として発表したが、その後もこの研究を続け、「ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産」(白揚社, 97)という分厚い書籍として全米で94年に出版した。この本の中では、セーガンとのやりとりと、具体的な科学理論について述べられている。

 いきなり個人的な話で申し訳ないが、筆者は99年ごろに、この「ブラックホールと時空の歪み」をヒントにして、フルCGアニメ向けのプロット(*3)を書いていたことがある。その企画が実現することは無かったが、ソーン自身が映画化を構想しているという話を聞いた時は驚いた。実際にソーンは製作総指揮として、脚本家のジョナサン・ノーランと数年に渡ってシナリオを練り上げ、『インターステラー』の映画化を実現させた(そして完成した映画のストーリーが、筆者のプロットに似ていてさらに驚いた)。ソーンはセーガンに見習い、科学の普及におけるフィクションの持つ力の重要性を理解したのだと思う。



 ソーンの狙いは、あくまでも高度な物理学(*4)を一般に伝えることにあったが、ジョナサンはそこに、大規模なダストボウルの発生と、植物の枯死、地球大気の致命的悪化、さらに、主人公クーパー(マシュー・マコノヒー)と娘マーフ(マッケンジー・フォイ、ジェシカ・チャステイン、エレン・バースティン)の時空を超えた親子の愛憎などの話を加えてストーリー化した。

*1 この小説は、ロバート・ゼメキス監督により97年に『コンタクト』として映画化されているが、公開前年にセーガンは永眠している。だが、ヘイデン・プラネタリウム館長のニール・ドグラース・タイソンは、「ブラックホールで死んでみる‐タイソン博士の説き語り宇宙論(下)」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫, 2017)で、映画の中で最も重要なドレイク方程式の計算が誤っていることを指摘している。これは脚本家が意図的にやった可能性があり、セーガンが生きていたら激怒したかもしれない。

*2 ソーンは「LIGO検出器および重力波の観測への決定的な貢献」によって、17年のノーベル物理学賞を受賞した。

*3 この時書いていたプロットは「太陽の活動が低下し、地球は7億年前のような全球凍結に陥り、ほとんどの生物が死滅すると予想される。そこで近傍の系外惑星が徹底調査され、有望な天体に向けて船団(『パッセンジャー』(16)のような感じ)が送り出される。だがどの天体でも、居住可能な惑星は発見できなかった。主人公たちの乗った船も同様だったため、地球へ帰還することが決定される。幸い、近くにブラックホールが発見されたため、それを用いたスイングバイを繰り返すことで加速し、同時に強い重力による時間の遅れで地球環境の復活に期待をかける。そうして帰還した地球は、出発時から2億年経過しており、生き残った単純な生物から再進化した、まったく新たな生態系が生まれていた…」といった内容だった。何となく似てるでしょ?

*4 ソーンは、この映画に描かれている科学理論をまとめ、「The Science of Interstellar」(W. W. Norton & Company, 2014)という書籍で、非常に詳しく図解入りで解説している。映画を深く理解したい方にはお勧めである。

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