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「この世界は本物じゃない」:現実への違和感を描いた傑作映画たち
クリストファー・ノーラン脚本・監督作『インセプション』(2010)の主人公コブ(レオナルド・ディカプリオ)が、亡き妻モル(マリオン・コティヤール)について語る場面で、こう口にする。「この世界は本物じゃない。目覚めて現実に戻らないといけない」
今見ている世界は本物なのだろうか――。そんな現実への違和感は本作の重要な要素だが、もちろんこれはノーランの専売特許ではない。何らかのSF的な技術によって登場人物が夢や仮想現実の世界に入り込む映画といえば、『トータル・リコール』(1990)、『オープン・ユア・アイズ』(1997)、『マトリックス』『イグジステンズ』『13F』(1999年)、『パプリカ』(2006)といった傑作が挙げられる。本格SFのジャンルに限定せず、異星人の特殊能力によって人間が非現実の世界を見せられるという設定なら、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)、『ダーク・シティ』(1998)も加えられよう。
『インセプション』はこうしたサブジャンルの集大成的な力作であり、ノーランのフィルモグラフィーの中でも画期的な1本と言える。主に映像面での『インセプション』の魅力を紹介した 前回記事に続き、今回は物語の要素やノーランの作劇術について論じてみたい。