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リスクを負い挑戦する姿が宇宙飛行士と重なる、デイミアン・チャゼル監督『ファースト・マン』

リスクを負い挑戦する姿が宇宙飛行士と重なる、デイミアン・チャゼル監督『ファースト・マン』


チャゼル監督の宿命的なテーマ



 本作がきわめて“主観的”に感じられる理由は他にもある。それは、ニールの家庭の事情が非常に重みを持って描かれているという点である。もちろん、多くの映画において、主人公の家庭環境を描くということは珍しくない。とはいえ本作のように偉業を表現する場合のそれは、主人公の達成を盛り上げる役割として機能させる意味を持たせられるのが常であろう。だがここでは、「月面を歩く」という、人類史に燦然と名を残す偉業と、ニールの家庭の問題が、等価に並べられているように感じられるのだ。


 それは例えば、劇中で“白人が月へ行く”ことを歌で批判する、ある黒人の主張も同様である。本作がそれを正当な意見だとも身勝手な主張だとも扱わず、地球と月が、人類が現れる以前からもともと現実に存在していたように、自然にあるものとして描いているのだ。多くの人々は、家庭人としてのニールではなく、月を歩くニールをこそ重要な存在だと思いがちだ。しかし、ニール個人にとっては、月に降り立つことも、家庭のことで悩むことも、同じように重大なことである。個人の幸せを選ぶならば、むしろ家庭の方を重視するべきともいえよう。とはいえ、ニールは家庭が崩壊するリスクを感じながらも月へ行く決心を固める。高くジャンプすれば、それだけ重力によって地面に強く引き寄せられるように、しばしばその価値観は反発するものとして存在しているのである。




 そういう意味では、『セッション』や『ラ・ラ・ランド』が描いたテーマに、本作は接近しているように思える。それは、特別な存在になるためには、何かを犠牲にすることがあるという、シンプルな価値観である。しかし、それらはいつか和解をすることがあり得るのではないかという願望や可能性が、ガラスによって分断されつつも求め合うふたりの姿をとらえた、印象深いシーンによって表現されているように思える。ここでは、チャゼル監督がいままで取り組んできたテーマの深化が見られるのだ。


 チャゼル監督の真に素晴らしい点は、成功を収めても、そこで立ち止まらず先に進もうという意志を持っていることである。彼は今回、ニールのように勇敢にリスクを背負い、批判や反発を覚悟しながらも、きわめて挑戦的な作品を完成させた。そして、そんな人物だからこそ、『セッション』や『ラ・ラ・ランド』という、望外の成功があったともいえるのだ。想像の枠を超え、大きな飛躍を遂げ続けるチャゼル監督。今後の彼の作品はさらに見逃せないものとなった。



文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter: @kmovie



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『ファースト・マン』

公開日:2019年2月8日(金)全国ロードショー

配給:東宝東和

(c)Universal Pictures

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