1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. バビロン
  4. 『バビロン』スクリーンの天使たちによるラストダンス!
『バビロン』スクリーンの天使たちによるラストダンス!

(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『バビロン』スクリーンの天使たちによるラストダンス!

PAGES


女性の映画製作者



 『バビロン』ではネリー・ラロイを撮る映画監督ルース・アドラーをデイミアン・チャゼルのパートナー、オリビア・ハミルトンが演じている。この役はサイレント期から活躍した女性映画作家のパイオニア的存在であり、近年フェミニズム映画の文脈で語られるドロシー・アーズナーをモデルとしている。ドロシー・アーズナーはクララ・ボウ主演のサイレント映画と、彼女にとって初のトーキー映画『ワイルド・パーティー』(29)を撮っている。サイレントとトーキーの移行期にクララ・ボウと仕事をした人物だ。


 本作で女性の映画製作者が描かれている意義は大きい。自身の映画製作会社を立ち上げ、更に映画ビジネスにおける機会均等のマニフェストを掲げ、キャリー・マリガン主演の『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)等、野心的な作品を連発している近年のマーゴット・ロビーの姿と重なっている。マーティン・スコセッシの『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(13)でのブレイク以降、納得できる作品を自身で製作することにマーゴット・ロビーは集中している。撮影現場に必ず立ち会い、エージェントに怒鳴られることもあるという映画製作者としてのマーゴット・ロビーは、プロデュース業が単なる肩書きだと思われることと戦っているという。『バビロン』で当たり前のように映画作家として活躍するルースの姿には、現在の彼女が求めているであろうプレコード時代の自由がある。



『バビロン』(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.


 『バビロン』では、サイレントからトーキーに移っていく際の混乱がルースの撮影現場を通して描かれている。砂漠に立てられたセットの無秩序が、フレームの外から何が飛んでくるか分からないウェス・アンダーソン映画のドタバタ性のように刺激的な、サイレント期の撮影現場。そしてトーキーへの移行で、撮影現場に録音マイクが設置されることになったことによる制限。サイレント期の撮影現場が何でもありな空気だったのに対し、音を得て更なる自由と進化を得るはずのトーキー映画に不自由が生じるという矛盾。サイレント映画の撮影現場は騒音とカオスに満ちていたが、トーキー映画は一転して物音一つ立てられない、静かな撮影現場に変化していく。訛りや声色が映画関係者から問題視されるネリー・ラロイとジャック・コンラッドのようなサイレント映画のスターは、映画が音を獲得したことで不自由な活動を余儀なくされていく。そして初のトーキー映画とされる『ジャズ・シンガー』(27)への大衆の熱狂によって、映画界は大きな変遷を迎える。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. バビロン
  4. 『バビロン』スクリーンの天使たちによるラストダンス!