2021.07.07
『プロミシング・ヤング・ウーマン』あらすじ
30歳を目前にしたキャシー(キャリー・マリガン)は、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる……。
Index
復讐劇をハードに見せ過ぎない意図
夜ごとバーで泥酔して、男性から声をかけられるのを待つ主人公のキャシー。しかし、その後の彼女の行動は…。医大生時代のある事件をきっかけに、キャシーの人生は一変した。長い時間をかけ、そのトラウマと向き合いながら、過激な行動を続けるキャシー。そして“元凶”に近づいた彼女の、大胆かつ衝撃的な決意と行動とは…。
キャシーに共感できるとか、できないとか、そういうレベルを超えて、観る者をこれまで体験したことのない世界に引きずり込むのは、キャリー・マリガンの強烈な行動とクールな表情のギャップ、アカデミー賞を受賞した脚本の巧妙さなど、さまざまな要素が絶妙にブレンドされた結果だ。しかし何より、ダークな物語と鮮やかなコントラストを放つ、全体のポップな演出が、こちらの心をつかんで離さない。わかりやすいポップさは、過剰なまでにカラフルさを意識した映像で、これは観れば明らか。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』予告
もうひとつ、エメラルド・フェネル監督の仕掛けが冴えるのは、使用される楽曲である。それぞれのシーンにふさわしいうえに、ポップさを加えるというシンプルな選曲も多いのだが、その曲に託された思いも深読みできるのだ。
ドラッグストアで、キャシーと目の前の相手が口ずさむのが、パリス・ヒルトンの「スターズ・アー・ブラインド」。このシーンは『プロミシング・ヤング・ウーマン』の中で最も心が落ち着く時間でもある。セレブ人気が頂点を迎え、音楽にも進出したパリスの最初のアルバムからのシングルカット曲だが、直後に飲酒運転で逮捕されるなど混乱を極めた時期でもあった。エメラルド・フェネル監督は、「男性が歌詞を知っていたら、女性から好意をもたれやすい」というポイントでこの曲をチョイスしたという。
ウェザー・ガールズの大ヒット曲「ハレルヤ・ハリケーン」をデスバイロミーがカバーした「イッツ・レイニング・メン」も、前半のキャシーの日々の行動に重ねられる。レイニング・メン=雨のように降ってくる男たち。曲自体は、そのような男たちを“歓迎”している意味合いなのだが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』では、多くの男たちを受け入れるように見せかけ、撃退するという、明らかな皮肉として使われる。