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『プロミシング・ヤング・ウーマン』衝撃的ドラマにポップなムードと深い意味を与える、音楽の上級チョイス

(c)2020 Focus Features

『プロミシング・ヤング・ウーマン』衝撃的ドラマにポップなムードと深い意味を与える、音楽の上級チョイス

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随所に感じる、監督のミュージカル愛



 映画の中盤でキャシーが、ある挑発行為(相手はもちろん男性)に対して怒りを爆発させるシーンに流れるのは、ワーグナーの歌劇「トリスタンとイゾルデ」の「愛の死」だ。あくまでも、その描写を劇的に盛り上げる効果として使われているが、「トリスタンとイゾルデ」における主人公男女の最終的な悲運を、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のラストに重ねると、なんともいえない切なさが漂うのも事実だ。他の使用曲の多くがポップな印象を与えるのに対し、ここにクラシックの、それも荘厳な名曲を使うことで、物語の普遍性、神話性を付加したようでもある。



『プロミシング・ヤング・ウーマン』(c)2020 Focus Features


 そしてもう1曲。クライマックスの重要なパートで使われているのが、ミュージカルの名作『王様と私』からの「サムシング・ワンダフル」。ウェールズの教師アンナが、シャム国王の子供たちの家庭教師をするために、バンコクへやって来る『王様と私』。しかし封建的な考えで、時に横暴、理不尽な行動もとる国王に、アンナは耐えられない。そんな彼女に対し、王妃が「じつはすばらしい部分もある」と王の素顔を説明するのが、この歌だ。


「この男は、心で考える

その心はいつも賢いとは限らない

この男は、つまずいて転ぶ

それでも何かに挑む

あなたもいつか許すことができる

だからあなたが生きている間に守ってあげて」

(翻訳:筆者)


 封建的な社会の中で、男が間違っていたら、それを正してあげることで、何かすばらしいことを成し遂げる。あくまでも、これは19世紀のシャムでの物語だが、この歌詞は2020年の『プロミシング・ヤング・ウーマン』のテーマと地続きであり、メロウな曲調が、これまた描かれる状況と鮮やかなコントラストを作り上げる。『サウンド・オブ・ミュージック』などで、リチャード・ロジャース(作曲)&オスカー・ハマースタイン2世(作詞)というミュージカルの歴史を作った伝説コンビによる曲は、こうして時代を超えて再び輝きを取り戻した。


 エメラルド・フェネル監督は、このようにミュージカルへの愛も強いようで、2021年、ロンドンのウエストエンドで上演予定の、アンドリュー・ロイド・ウェバー(「キャッツ」「オペラ座の怪人」など)作曲の新作ミュージカル「シンデレラ」に、脚本家として参加している。『プロミシング・ヤング・ウーマン』で全編にちりばめた曲のチョイスも、ある意味でミュージカル的であり、音楽を効果的に使うというフェネルの作家性が存分に表れたと言ってよさそうだ。



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取材・文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。



作品情報を見る



『プロミシング・ヤング・ウーマン』

7月9日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷・梅田にて先行公開

7月16日(金)TOHOシネマズ 日比谷&シネクイントほか全国公開!

(c)2020 Focus Features (c)Universal Pictures

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