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『プロミシング・ヤング・ウーマン』衝撃的ドラマにポップなムードと深い意味を与える、音楽の上級チョイス

(c)2020 Focus Features

『プロミシング・ヤング・ウーマン』衝撃的ドラマにポップなムードと深い意味を与える、音楽の上級チョイス

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暗黒的名作『狩人の夜』への濃密なオマージュ



 このあたりは意図がわかりやすい曲の使い方だが、深い意味が込められたのが、映画からの引用も含めた「パールズ・ドリーム」という曲だ。キャシーが、自らも目を疑う事実を知り、なかば呆然として外を歩くシーンに重ねられる。その歌詞はーー


「むかしむかし、かわいいハエがいました

そのハエにはかわいい妻がいました

でもある日、彼女は飛び去ってしまいました

彼女にはふたりの子供がいました

しかしある夜、その子供たちも飛び去っていきました

空へ、そして月へ向かって」

(翻訳:筆者)


 この「パールズ・ドリーム」は、1955年の映画『狩人の夜』からの引用。刑務所を出所した男が、キリスト教の伝道師のフリをして、大金を持つ未亡人と結婚。そこから惨劇も含めた恐ろしい運命が展開される『狩人の夜』は、主人公の指に刻まれた「L-O-V-E」「H-A-T-E」の刺青が、後の多くの映画で使われた伝説的な作品だ。



『プロミシング・ヤング・ウーマン』(c)Universal Pictures


 「パールズ・ドリーム」は子守唄のように流れ、主人公が未亡人に手をかけ、逃げた子供たちの後を追う『狩人の夜』全体を暗示する内容。動機は違えど、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャシーが執拗にターゲットを追いかける姿に、左右対称の鏡のようにリンクする。そして男性から女性に対する、いわれなき暴行という深い部分での共通項でもつながる。これより前のシーンで、キャシーの両親が自宅のテレビで観ている映画が、この『狩人の夜』だった。こうした名作からの巧みな引用も、エメラルド・フェネルの脚本が高く評価された要因ではないか。


 『プロミシング・ヤング・ウーマン』のアイコン的に使われている、キャシーが看護師のコスプレをしたシーン。そこで使われるのが、ブリトニー・スピアーズの「トキシック」の弦楽重奏バージョン。ブリトニーの代表曲ともいえるが、ここには彼女がキャリアの中で男性たちに操られ、なおかつ私生活で父親に虐待同然のことを強いられている事実と、その告発が重ねられている。ポップスのアイコン的存在と、悲劇の素顔。この関係は、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の壮絶なドラマと、明るくポップなノリの相剋と似ている。


 ちなみにキャリー・マリガンはキャシーを演じるにあたって、エメラルド・フェネル監督から「聴いておくべき曲のプレイリスト」を受け取っており、その1曲が「トキシック」だったそうだ。



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