2023.02.25
『逆転のトライアングル』あらすじ
インフルエンサーのヤヤは、豪華客船クルーズの旅に招待され、恋人カールがお供することに。乗客は桁外れの金持ちばかり。ロシアの新興財閥“オリガルヒ”の男とその妻。有機肥料でひと財産築いたと語る男は、「私はクソの帝王」と笑う。会社を売却して腐るほど金がある男や、武器製造会社を家族経営している英国人老夫婦もいる。そんなセレブたちをもてなすのは、客室乗務員の白人スタッフたち。そして、船の下層階では、料理や清掃を担当する有色人種の裏方スタッフたちが働いている。ある夜、船は嵐へと突入し、さらに通りかかった海賊に手榴弾を投げられ、難破してしまう。数時間後、乗客・乗員たちは無人島に流れ着く。食料が限られる中、清掃係のアビゲイルが海に潜りタコを捕獲!サバイバルスキルなど一切ない大富豪たちを支配下に置いたアビゲイルは、“ 女王”として君臨していくが―。
Index
- アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞の3部門ノミネート
- 過去3作に共通する「舞台設定」×「事件」=「反応」
- 不快感の共有を生む、「長回し」と「蒸し返し」
- 当事者性をもたらす、人間観察と実体験
- 「容姿」と「財力」の“ふたつの貧富”を描く
- かつてないほどにエンタメ性が強化
アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞の3部門ノミネート
日本時間2023年1月25日に発表された、第95回アカデミー賞ノミネーション。A24の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が最多10部門11ノミネートを果たし、Netflix『西部戦線異状なし』が9部門ノミネート、『イニシェリン島の精霊』が8部門9ノミネートで続いた。
個人的な見解だが、今回は作家主義的映画×各国の作品に票が集まった印象だ。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の製作国はアメリカだが(『アベンジャーズ』シリーズのルッソ兄弟がプロデュース)、アジアにルーツを持つキャストが揃い、2022年版の『西部戦線異状なし』はドイツ、『イニシェリン島の精霊』はイギリスとアイルランドが中心に製作された作品。そして、スウェーデン・フランス・イギリス・ドイツ合作の作品が、作品賞・監督賞・脚本賞の3部門にノミネートされた。リューベン・オストルンド監督の『逆転のトライアングル』である。
『逆転のトライアングル』Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
『逆転のトライアングル』は第75回カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞しており、オストルンド監督は『フレンチアルプスで起きたこと』(14)で同映画祭ある視点部門の審査員賞(第67回)、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(17)でパルムドール(第70回)を獲得してきたため(2作連続のパルムドール受賞は史上3人目)、実績的にはなんら不思議ではない。
ただ、『逆転のトライアングル』がオストルンド監督初の英語作品ということも要因であろうが――、いちファンとしては彼がついにアカデミー賞の主要部門にまで手をかけた感はある。前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は外国語映画賞(現・長編国際映画賞)の1部門ノミネートだったことを考えると、大いなる躍進といえるだろう。ちなみに『逆転のトライアングル』は、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でパルムドールを受賞した直後に制作発表されたそうで、2017年から動いていた企画だ(コロナによる撮影の中断もあった)。
本稿では、オストルンド監督の『フレンチアルプスで起きたこと』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』との共通点を中心に、『逆転のトライアングル』の魅力に迫っていきたい。