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『逆転のトライアングル』意地悪さ×共感性の名手が、エンタメを追求した野心作

Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

『逆転のトライアングル』意地悪さ×共感性の名手が、エンタメを追求した野心作

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「容姿」と「財力」の“ふたつの貧富”を描く



 ここまでは『フレンチアルプスで起きたこと』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』『逆転のトライアングル』の共通項を中心にリューベン・オストルンド監督の作家性を考えてきたが、最後に『逆転のトライアングル』の概要を改めて紹介したうえで、前2作との相違点を見ていきたい。


 まず、『逆転のトライアングル』はオストルンド監督初の全編英語劇である。スウェーデン語で脚本を制作し、英語に変換したうえで俳優陣とリハーサルをし、そのうえでシーンによっては脚本を差し替えるなど、英語話者に適したセリフにブラッシュアップしていったという。北米配給は、『パラサイト 半地下の家族』(19)『TITANE/チタン』(21)で知られるNEONが手掛けた(ちなみにA24やサーチライト・ピクチャーズも入札していたそう)。


 原題は『Triangle of Sadness(悲しみの三角形)』だが、これは美容業界用語で、眉間のしわのこと。ボトックス注射をすれば外見的には“治る”が、その原因となったトラブルやストレスの根本的解決にはならない――。オストルンド監督は友人に聞いたエピソードから、現代における「見た目への強迫観念」を出発点に、モデルの男女をメインのキャラクターに据えたという。


 いわばルッキズムがテーマといえるが、本作においてはもうひとつ「財力」というテーマが中心に置かれている。容姿と財産、このふたつにおける“貧富”がWテーマ的に「乗船前」「乗船中」「乗船後」の3章立てで展開するのだ。



『逆転のトライアングル』Fredrik Wenzel © Plattform Produktion


 第1章はモデルカップルのカール(ハリス・ディキンソン)とヤヤ(チャールビ・ディーン)の収入格差をめぐる物語。第2章では、ふたりは容姿によってインフルエンサーとして豪華客船に招待され、容姿の代わりに財産を持っている金持ちたちと同様のステータスを手にする。そして第3章では、船が難破して孤島での生活が描かれる。ここでは容姿も財力も力が弱まり、サバイバル能力に長けた清掃係がヒエラルキーのトップに立つ――。まさにヒエラルキーのトライアングルが“逆転”するわけだ。


 そういった意味では、これまでのオストルンド監督の特徴だった「メインの舞台をひとつに絞る」からもうひとつ進んだ感がある。メインキャラクターは変わらず、レストラン→客船→島とワンシチュエーション×3に拡大した感覚だ。





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