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『逆転のトライアングル』意地悪さ×共感性の名手が、エンタメを追求した野心作

Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

『逆転のトライアングル』意地悪さ×共感性の名手が、エンタメを追求した野心作

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かつてないほどにエンタメ性が強化



 『フレンチアルプスで起きたこと』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』とは異なる、『逆転のトライアングル』の最大の特徴。これは個人の感覚にも依る部分だが、彼の作品を追いかけてきた人間として――第2章でゲロと下痢まみれになるという苛烈な描写はあれど……先に述べた章立て等の物語構造も含めて、本作はエンタメ性にこれまで以上に重きが置かれている。


 4泊5日の旅行を1日ごとに淡々と映し出す『フレンチアルプスで起きたこと』に対して『逆転のトライアングル』はテンポ感や展開のスピーディさ・多彩さが増し、少々敷居の高いアート業界を描いた『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に比べて「わかりやすさ」が強化されている印象だ。



『逆転のトライアングル』Fredrik Wenzel © Plattform Produktion


 もう少しかいつまんで語ると、『フレンチアルプスで起きたこと』は夫婦の関係が次第に悪化する過程を描いた一定方向の物語だが、『逆転のトライアングル』はカールとヤヤのマウントの取り合いが全編にわたって繰り広げられるため、どっちに転ぶかわからない“不規則性”が特長だ。そして『ザ・スクエア 思いやりの聖域』はアート業界の知識層――“意識高い系”の人々の権威が崩れていく様子を描くため若干のリテラシーが必要になるが、本作においては様々なやり口で成功した金持ちが転落するシンプルな設計になっている。


 非常時に貧富の差が逆転する構造は寓話的で理解しやすいし、状況に応じて恋人たちの上下関係が都度変容するラブサスペンス的要素もあり、「見た目」「お金」という私たちにもとっつきやすい題材で観客における知識格差を作らない。さらに遭難生活を描くことで「最後はどうなるの?」と物語の続きに興味を抱かせる。女王と化したトイレ掃除係のアビゲイル(ドリー・デ・レオン)の豹変ぶりも痛快で、“キャラ立ち”もこれまで以上に濃い。英語劇ということも含め、より開かれた作品に仕上がっている。


 持ち前の作家性に、エンタメ性という武器まで搭載したリューベン・オストルンド監督。カンヌに続きアカデミー賞まで射程圏内に収めた彼は、次に何を描くのか。さらに“開く”のか、或いは“閉じる”のか。今後のキャリアに、注目したい。



文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema



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『逆転のトライアングル』

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配給:ギャガ

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