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『愛、アムール』ミヒャエル・ハネケ作品に通底するテーマ──その究極形態として描かれる「愛」

(c)Photofest / Getty Images

『愛、アムール』ミヒャエル・ハネケ作品に通底するテーマ──その究極形態として描かれる「愛」

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『愛、アムール』あらすじ

パリで暮らす音楽家の老夫妻、ジョルジュとアンヌ。幸せな夫婦の日々は、アンヌの発作で突然暗転する。かろうじて死だけは免れたものの、手術が失敗に終わり、半身に麻痺が残ったアンヌの「病院には戻りたくない」という願いを聞き入れ、ジョルジュは自宅でアンヌと過ごすことを決める。しかし、アンヌの病状は日に日に悪化していく。


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“あのハネケ”が手がけた「愛」の映画



 観る者を不快感の沼に引きずり込む映画作家、ミヒャエル・ハネケ。「胸クソ悪い」「最悪の後味」「神経を逆撫でされる」──鑑賞後にこんな感想が上がる映画を手がける、世界的オーソリティーである。ハネケが新作を発表するたびに巻き起こる賛否の嵐。彼の作品がトラウマになっている方も少なくないのではないか。フィルモグラフィーを振り返ってみれば、そこに並んでいるのは、観客の倫理観を揺さぶる“問題作”の数々。もはや「ハネケ映画」という、一大ジャンルを築き上げているといってもよいだろう。そんな「ハネケ映画」のなかでも特別な作品が、『愛、アムール』(12)だ。


 誤って少女を殺害してしまった少年・ベニーの姿を捉えたビデオをめぐる『ベニーズ・ビデオ』(92)、徹底的に暴力の不快さを描き、セルフリメイクも果たされた「ハネケ映画」の金字塔『ファニーゲーム』(97)、倒錯的な男女の関係を描いた『ピアニスト』(01)、第1次世界大戦直前のとある村に漂う“不穏な気配”を映像化してみせ、第62回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞した『白いリボン』(09)──これらの流れを経て生み出された『愛、アムール』は、タイトルに強く打ち出されているように、あるひとつの「愛のカタチ」を描いたものである。


『愛、アムール』予告


 この「カタチ」とは、万人が思い描くものではないだろう。あくまでも、ハネケの考える「愛」である。そもそもハネケの描く「愛」に関する映画が、軽い気持ちで観ることができるわけがない。観客によっては、やはりある種の“キツさ”、“耐え難さ”を感じるに違いない。


 描写されるのは、一組の老夫婦の物語だ。“老老介護”のリアルも冷酷なまでに刻まれている。『コード・アンノウン』(00)に色濃く反映されているように、これまでハネケが描き続けてきた“ディスコミュニケーション”をはじめとする社会的な諸問題を、本作は抽象的にではなく、具象的に描いている。


 社会のリアルを反映させながら、“あのハネケ”が手がけた究極の「愛」の映画──それは第65回カンヌ国際映画祭において、前作『白いリボン』に続き、2作連続のパルム・ドール受賞に結実した。




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