無垢な庭師が周囲から誤解される可笑しさ
ワシントンD.Cにある豪邸で長年庭師を務めてきたチャンス(セラーズ)は、邸宅の敷地から一歩も外に出たことがなく、仕事以外の時間はTVを見て過ごしてきた。彼の知識は全てTVから得たものだ。ある日、当主が亡くなり、弁護士から遺産の請求権がないことを知らされたチャンスは、とりあえず荷物をまとめて初めて外に歩み出たものの、行く当てなどあるわけがない。街をさまよっていたチャンスは、ビデオカメラに映る自分の姿に見とれて思わず車道にはみ出したところ、通りかかった高級リムジンに脚を挟まれてしまう。その車には、経済界の大立者でアメリカ大統領の腹心でもあるベンジャミン・ランド(メルヴィン・ダグラス)の妻、イヴ(シャーリー・マクレーン)が乗っていたーー。
ここから、チャンスの運命は激変する。彼自身はひたすらイノセントで無知な庭師のままなのだが、周囲が大物扱いし始めるのだ。そこが風刺コメディと呼ばれる理由でもある。チャンスはイヴから名前を聞かれて『チャンス、ガーディナー(庭師のチャンスです)』と答えたのに、彼女が勝手に『チャンシー・ガーディナー』と聞き違えるところから全ての誤解は始まる。
『チャンス』予告
病気療養中のベンジャミンは、一見事業に失敗した古風な実業家に見えなくもないチャンスが口にする、『経営者は土を耕す庭師みたいなものだ』という考えを拡大解釈し、不況にあえぐアメリカ経済を再建するための比喩だと勘違いする。ベンジャミンはチャンスを財界人や大統領(ジャック・ウォーデン)にも紹介する。経営者=庭師論に影響された大統領は演説でもチャンスの名前を出す。FBIとCIAがチャンスの経歴を調査するが、当然何も出てこない。チャンスの出現で自信を喪失した大統領は、夫人との夜の生活がダメになる。ベンジャミンはチャンスと出会ったことで、死ぬことが怖くなくなったと話す。そして、無知ゆえに叩いても叩いても心の扉が開かないチャンスに、イヴは心底魅了されていく。