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『博士の異常な愛情』シリアスドラマをブラック・コメディへと変貌させたキューブリックの革新性
博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
2019.11.16
『博士の異常な愛情』あらすじ
時は冷戦の真っ只中。アメリカの戦略空軍基地司令官リッパー将軍が突然、ソ連への水爆攻撃を命令する。ところがソ連が保有している核の自爆装置は水爆攻撃を受けると10ヶ月以内に全世界を破滅させてしまうと判明。両国首脳陣は最悪の事態を回避すべく必死の努力を続けるが、水爆はついに投下されてしまう・・・。
Index
世界が不安定化する今、見直すべき傑作
私の幼少期、まだベルリンの壁は建っていたし、世界は冷戦の只中だった。米ソ両国は大量破壊兵器を量産し続けてはいたものの、とりわけ80年代終わりから90年代にかけての私の目には、切羽詰まった危機は若干遠のいているように見えた。両者の争いは凶器を首元に突きつけ合うというよりは、どこか引っこみのつかなくなった意地やプライドの張り合いのように思えた。そんな時代に育ったせいだろうか、学生になって初めてレンタルビデオで『博士の異常な愛情』(64)や『 未知への飛行』(64)を観たときは、どこか遠い世界のファンタジーのように感じられたものだ。
『博士の異常な愛情』予告編
だが、あれから時代が一周も二周も巡った今、改めてキューブリックのこの傑作ブラックコメディを鑑賞すると、笑うに笑えない冷や汗のようなものが背筋に流れてくる。
もともと『博士の異常な愛情』は、第二次大戦後もっとも核戦争の緊張が高まったキューバ危機(62)を挟んだ時期に製作、公開された作品だ。ふと気になって、アメリカの科学誌による「世界終末時計(Doomsday Clock)」をチェックしてみると、針が指し示す2019年の時刻は、過去最悪の「地球滅亡まで二分前」。どうやら私たちは公開から時を隔て、今ふたたび、本作を鑑賞するのにうってつけのタイミングを生きているらしい。