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36年越しの見事な続編『ビートルジュース ビートルジュース』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.69】

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"健在な"霊界の質感





 本当に前作のそのままの続きに見える要素として、個人的にいちばん大きいと感じるのはもちろん死後の世界、霊界のヴィジュアルである。その手作り的な質感はまさに前作と変わらない上、新たに登場するディテールも多く、非常に満足度が高い。今回も霊界の受付で待たされている不幸な死者たち、そのカウンターの内側で働いているもっと不幸な死者たちの造形は相変わらずおもしろい。本作は霊界側のネームド・キャラクターも多いが、その筆頭はウィレム・デフォー扮するウルフ・ジャクソンと、モニカ・ベルッチ扮するドロレスだろう。生者の世界の物語がチャールズ・ディーツの死で動き出すなら、霊界側の騒動はドロレスの復活(自由に身動きがとれるようになるという意味で)によって始まる。ドロレスはビートルジュースの生前の妻であり、カルト教団の魔女だ。数百年前、ふたりは互いを殺し合った仲で、ドロレスは元夫に復讐するためその行方を追い、途中で出会った死者たちの魂を次々に吸い取って滅ぼしていた。一連の騒動を受けた霊界の刑事ウルフは、ドロレスのみならずビートルジュースのことも追うことになるが、彼は生前本当の刑事だったというわけではなく、刑事役で活躍した映画スターだったに過ぎないというのが、本作における霊界の胡散臭さを物語っていていい。


 ウルフの部下のひとりオルガは、競技審判の制服を着て首にやり投げのやりが刺さった格好で登場するが、死の光景が容易に想像できるのもさることながら、演じるリブ・スペンサーはこのあと『ウェンズデー』シーズン2にて、ヘスターおばあちゃんの使用人(アダムス家の執事ラーチの女性版とも言うべきキャラクター)を演じている(S2のあとで本作を見返して気付いた)。ドロレスによる最初の犠牲者となる霊界の清掃員役ダニー・デヴィートは説明不要だろう。顔の青いダニー・デヴィートでしかないのがおもしろいが、彼が口から液体を滴らせていると『バットマン リターンズ』のペンギン好きとしては顔が綻んでしまう。また前作には原住民に魔法の粉で頭を縮められた探検家風の死者が登場したが、本作では同様の姿をしたゾンビが何人も登場し、皆ビートルジュースの下で働いており、筆頭であるボブをはじめ、本作のマスコット的な位置におさまっている。


 前作からの引用で忘れてはならないのはサンドワームだろう。死後自宅に取り憑くことになったメイトランド夫妻だったが、それは幽霊としての活動範囲がそこだけに限られることを意味し、その結界の一歩外に出れば彼らの前には奇妙な砂漠が広がり、砂中を泳ぎ回る巨大なサンドワームに襲われることになる。前作のクライマックスでは、リディアを花嫁にして生者の世界に出てこようとしたビートルジュースを撃退するのに一役買ったサンドワームだったが、どうやら劇中世界ではほとんど最強の存在らしく、今回も同じようなシチュエーションで活躍する。


 今回のサンドワームもオリジナル版同様にストップモーション・アニメで撮られているが、前よりもさらに洗練された造形と撮影技法によって見事な復活を果たしている。手がけたのは『マーズ・アタック!』(96)や『コープス・ブライド』(05)、『フランケンウィニー』(12)と、長年バートン作品のストップモーションを支えてきたスタジオ、マッキノン&サンダース。チャールズの死を描く回想シーンももちろん彼らによるもので、本作ではチャールズに襲いかかるジョーズ風の巨大なサメと、サンドワームが2大特撮クリーチャーと言えそうだ。ストップモーションの責任者であるイアン・マッキノンは前作のファンでもあったが、この二度と再現されることのなさそうなプロジェクトについて、バートンから続編の準備が整ったという電話を受けて驚いたという。くねくねと本物の生き物のように動き、前作とは比にならないようなきめの細かいテクスチャをまとったサンドワームには、技法への情熱だけでなく、この風変わりなカルト映画への愛も存分に詰まっていることだろう。


 そんな単なる再現以上の復活を遂げたサンドワームこそ、前作と同じ質感を持つ本作の象徴に思える。生者の世界とは異なり、霊界は時がとまった空間でもある。その表現がぴったりなほど前作の雰囲気がよく再現されているのだが、随所のディテールアップも忘れられていない。年を取らないはずのビートルジュースにしても、濃いメイクは前作のそれよりもきめ細かくアップグレードされているし、リディアとアストリッドの関係も、ただ単にリフレインされた母娘の関係には終わらない。続けるからには繰り返すだけでなく前に進めなければならない。前作と変わらないヴィジュアルを呼び起こしたバートンと、そのヴィジョンをもとに意外なほど真っ当に筋の通ったストーリーテリングを展開した『ウェンズデー』組との、今後のコラボレーションにも期待である。バートン映画において、今度はどんな表情のジェナ・オルテガが見られるのだろうか。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵、絵本など。映画のイラストレビュー等も多数制作中。

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