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『架空の犬と嘘をつく猫』森ガキ侑大監督 ドラマを劇的に描かない、抑制という挑戦【Director’s Interview Vol.533】

『架空の犬と嘘をつく猫』森ガキ侑大監督 ドラマを劇的に描かない、抑制という挑戦【Director’s Interview Vol.533】

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ドラマを劇的に描かない



Q:物語上、劇的な事件が起こることはなく、感情の機微が話を進めていきます。そこの塩梅はどのように調整されたのでしょうか。


森ガキ:すごく難しかったです。例えば、とある人が、朝ご飯を食べて、昼に映画を観て、電車に乗って帰宅して、気づいたら「あ、今日1日終わったな」と感じている。そんな誰かの1日の中で、2時間だけ色が塗られるような、観客の日常の中に溶け混む映画を作ってみたいなと。かなり実験的になるので「“盛り上がり”はほぼないですよ」と事前にプロデューサーに伝えていました(笑)。それでも作らせてもらったのは大きかったですね。 


構成上は盛り上がるシーンでも、あえて誇張しないようにしています。仕上げの段階でも「決して音楽で泣かせないでください」とお願いしました。音楽で泣かせると音楽で答えを言っているようなもの。この日常の中で音楽がそっと背中を押してくれるような作り方をしたかった。ドラマを劇的には描かないようにしたいと、役者も含めた各パートに事前に伝えました。


Q:各パートの皆さんの反応はいかがでしたか。


森ガキ:みんな「難しい」って言っていました(笑)。作っているとどうしてもテンションが上がってくるんです。とにかくそれを指揮者のように都度抑えていました。いつもだったら多少オーバーになるように作っていましたが、今回は「もっとゆっくり、オーバーにならないように」と常に言っていました。あまりに地味になり過ぎたときは、「今の地味なところに少し色付けてみましょうか」といった言い方をして調整していきました。



『架空の犬と嘘をつく猫』©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会


Q:高杉さんの人との距離感が絶妙でした。


森ガキ:何か憑依していましたよね。それくらい完璧でした。どうしても主役はグッと前に出てしまうものですが、それを感じさせずに空気のように溶け込んでいた。高杉君じゃなかったら出来なかったと思います。最初の衣装合せで話した段階で、今回の狙いや演出意図をすごく理解してくれていました。


伊藤さんも尋常じゃなかったですね。あのお芝居はとんでもなかった。抑えつつも、そこからフワっと出てくるのがすごく良かった。かなり助けられました。


Q:全く急かしてないのに、125分あっという間でした。


森ガキ:それは嬉しいですね。海外の映画祭で観客と一緒に観ていたら、周りの人の反応が気になって仕方なかったんです。「あのシーンもうちょっと切れたかな」と言う度に、プロデューサーや助監督から「いやいや、これぐらいでいいんです」と言われていました(笑)。だから「あっという間だった」と言われると安堵します。今の世の中はショート動画の勢いがすごくて、映画への集中力が無くなっている。今回はその流れに逆行した作りになっているので、観客の反応が心配でした。


ボディブローのようにじわじわ効いてくる映画を作りたかったのですが、それって相当勇気がいることなんです。動員を考えると、盛り上がる象徴的なシーンをどうしても作りたくなってしまう。『愛に乱暴』(24)でワンシーンワンカットをやったときも同じでしたが、何かテーマを作ってやる時の怖さはすごくある。そこからブレないよう、何度も自分に言い聞かせていました。自分の中では毎回「これが最後の映画だ」と思ってやっているので、「次のことを考えても仕方がない!今ベストを尽くす!」と。それでもやっぱり怖かったですね。





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