背景でキャラクターを表現する、山崎裕が捉えたショット
Q:撮影の山崎裕さんの捉える佐賀の風景が、登場人物たちの気持ちに寄り添うかのようでした。
森ガキ:山崎さんと最初に話した時に「今回はゆったりフィックスで撮るのが良いと思うんです」と伝えると、山崎さんは「俺もそう思っていた。今回手持ちは封印する」と。“手持ち”は山崎さんの大きな特徴の一つですから、自分の得意なものは使わないことはとても大きい。フィックスで望遠レンズって山崎さんではなかなか無い。新たな挑戦だったと思います。
最近のCMなどは特にそうですが、若いカメラマンは被写界深度を浅くしがち。そこに実際には存在しない光を作ってやるといい画は撮ることができる。でもそれって結構簡単に出来ちゃうんです。そんな中で山崎さんは、「俺は背景でそのキャラクターを表現したいから美術をちゃんと映したい。だからちょっと生っぽくはなるけど、被写界深度を浅くはしない」と。本作はタリン・ブラックナイト映画祭で撮影賞を獲ったのですが、それが受賞につながったのかなと思います。
山崎さんは現場で嘘の光を一切作らせませんでした。窓が無い部屋で撮影する際、照明技師の尾下さんが光を入れようとすると、「尾下、それは嘘の光だ。そこは窓が無いだろ」と山崎さんが言うんです。尾下さんもかなりのベテランで巨匠ですから、その巨匠が叱られているのは何とも言えない空気でしたね。だから外での撮影では、尾下さんはすごく楽しんでいました。余貴美子さんが孫の紅の頬を触るシーンはすごくいい光で撮れていて、「尾下さん、めっちゃいい光でしたね」と言うと、「やっと光を作らせてもらった!」と喜んでいました(笑)。
Q:家族が集うバスの中のショットはその空気までヒシヒシと伝わってきましたが、あのシーンはどのように撮影されたのでしょうか。窓に映る伊藤万理華さんのショットでは息を呑みました。
森ガキ:山崎さんは当初正面から伊藤さんを撮っていたのですが、「ガラスに映ったディティールを見せていいか」とアングルを変えたらバッチリハマりました。他のシーンでは、車の窓ガラスに朝日と雲が映り込むカットがあるのですが、あれはまさに山崎さんがやりたかったショット。「ここはいい画を撮るぞ、ここはリラックスするぞ」という山崎さんの計算されたメリハリがすごく効いていました。勉強になりましたね。

『架空の犬と嘘をつく猫』©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会
Q:バスのシーンでは高杉さんと伊藤さん以外は誰も言葉を発しません。そこも印象的でした。
森ガキ:あのシーンでは“家族”というテーマを表現したかった。実際の家族って、誰かが悩み事を話しているときでも、他の人はご飯を食べていたりテレビを見ていたりと、一つ屋根の下でも違うことをやっている。そこがまさに“家族”なんだと。だから、山吹と頼がすごく神妙な話をしているときでも、ほかのメンバーは自分の“個”を持っています。その辺は事前に伝えていました。「山吹と頼の声が聞こえてきますが、他の皆さんは自由にしていてください」と。真面目な話とのアンバランスさを演出したく、かなり話し合いました。
Q:これまでの作品とはアプローチが違いますが、完成した映画を観ていかがですか。
森ガキ:今までの自分の中には無い映画が作れました。自分のフィルモグラフィの中でも異色なものがまた一個作れたなと。今はホッとしつつソワソワもしていますが、どんな感想が来るかすごく楽しみです。映画を作るときは、「これを作ったら死んでもいい」と常に思っています。映画にはそれくらいの思いで命を吹き込まねばならない。今の自分を代表する一本になったと思います。
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監督:森ガキ侑大
大学在学中にドキュメンタリー映像制作を始める。卒業後、CMプロダクションに入社し、CMディレクターとして活動。17年に独立してクリエイター集団「クジラ」を創設し、以来、Softbank、JRA、資生堂など多数のCMの演出を手掛ける。17年、長編映画デビュー作『おじいちゃん、死んじゃったって。』がヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。世界映画祭にて多数ノミネートを果たす。その後、TVドラマ、ドキュメンタリーなど映像作品を演出し、「江戸川乱歩×満島ひかり 算盤が恋を語る話」(18/NHK)で第56回ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞、「坂の途中の家」(19/WOWOW)で日本民間放送連盟賞テレビドラマ優秀賞を受賞する。 その他の代表作に、TVドラマ「時効警察はじめました」(19/テレビ朝日)、初のマンガ実写化に挑戦した『さんかく窓の外側は夜』(21)、コロナ禍の日本における人と仕事を追ったドキュメンタリー『人と仕事』(21)などがある。近年の作品では『愛に乱暴』(24)にて第58回カルロヴィバリ国際映画祭にてクリスタルグローブコンペティションにて正式出品。江口のりこが高崎映画祭、モントリオール日本映画祭、日プロ大賞にて女優賞を受賞する。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『架空の犬と嘘をつく猫』
1月9日(金)全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会