クリエイティブとは自分に正直であるべき
Q:今回もかなり振り切った面白いデザインになっていますが、観ていて違和感がありません。何の違和感もなく鮮烈なキャラクターとして入ってくるバランスが、いつもすごいなと思います。
柘植:そう言っていただけると嬉しいです。今回、組み立てられた結果としては突飛に見える部分もあるかもしれませんが、全てのベースには和服の「型」があり、その型を元に順列や組合せを変えて作っています。何もない状態から形や色を作ると、記憶の拠り所がなくなり、見たことのないものになってしまう。時代的な“型”を使えば、それ自体がすでに文脈や背景を背負っているため、目的に沿わせて変換させることで、「一見突拍子もないけれど馴染みがある」という掛け合いが生まれてくるからです。
俳優を観察することも大きいですね。例えば今回のさゆりなら、演じる蒼戸さんの肌の質感や透明度、佇まいといった雰囲気に何が似合うのかを考えていきますが、そういった概念的な設計を一旦投入してみても、どこか一部が合わなかったりすることがある。組み立てていく過程で、本人に本当に似合っているかどうかを見極めることが、そのキャラクターや衣装を観客にすんなりと受け入れていただくためには最も重要だと感じます。その拠り所は、“観察”しかないわけです。
この判断には、自分自身に対して非常に繊細で正直であることが求められます。クリエイティブの現場では、時間が差し迫っていたり条件がタイトだったりすると、違和感を感じても物理的な条件に流されてしまうことが多い。そのような状況でも、自分に正直であることには一番時間をかけるべきです。佇まいを作っている時の直感に対していかに正直に動けるかが、“似合う・似合わない”の判断の純度を高めていく。これはスタッフにも常に言っています。「心からそれで良いと思ってる? 疑問があったら言っていいからね」と。この仕事はグループワークであり、僕の仕事はその集積でもあるわけですから。

『脛擦りの森』©『脛擦りの森』プロジェクト
Q:主演の高橋一生さんとはどのように進められたのでしょうか。
柘植:まずはデザインの方向性をお伝えしますが、一生さんとは「岸辺露伴」で長くお付き合いをさせていただいていることもあり、解釈がズレることはほとんどありません。そこからデザイン画をご覧いただき、ディスカッションをしていきます。
今回の老人役については青年時代との微妙且つ明らかなギャップを生じさせるためにも、「体を大きく見せたほうが良い」という意見で一致しました。そこで一生さんから「服を2枚重ねにすると良いのでは」というアイデアが出てきた。軍服を2枚重ねるという着こなしは当時もあったかもしれませんが、結構アバンギャルドで現代的ですよね。寓話のような世界観の中に、そういったコンテンポラリーな考え方を入り込ませることは、現代の作品を作る上で欠かせないアプローチです。非常に良いアイデアだと思いました。役への解釈と同時に、お互いクリエイターとしてどういうスタンスで作品を作っているのかという精神が垣間見える。そんなやり取りでした。