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『アン・リー/はじまりの物語』モナ・ファストヴォールド監督 自然発生的なミュージカル映画を目指して【Director’s Interview Vol. 555】
35mmフィルムで撮り、70mmで上映するこだわり
Q:18世紀のイギリス、アメリカを再現するうえで、映像の質感でどんな方向性を求めましたか。
ファストヴォールド:参考にしたのは絵画ですね。撮影監督のウィリアム・レクサー、美術監督のサミュエル・ベイダーとは、早い段階からカラヴァッジオなどの宗教画をひとつの指針として共有しました。その構図や、自然光でありながらどこか神聖な雰囲気を感じさせる光の表現を参考にしたのです。イギリスのマンチェスターの場面では、ロウソクの明かりも使いましたよ。
Q:その表現のため、フィルムでの撮影を決めたのですね。
ファストヴォールド:もともと私はセルロイドフィルムでの撮影が好きなんです。16mmフィルムの質感は今でも愛おしいと感じられます。今回は70mmのフィルムで撮影することも考えましたが、人々が歌って踊るなど動きがダイナミックなシーンも多いので、70mmのカメラを使うことは無理だと判断しました。『ブルータリスト』での経験から、大型カメラをステディカムで長回しするのは、本当に困難だと思い知らされていましたから。結果的に35mmフィルムでの撮影を決めました。ウィリアム・レクサーはヴィンテージのレンズを所有しており、その中からSigmaなど個性の強いレンズを使って、絵画の質感を目指したのです。

『アン・リー/はじまりの物語』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved
Q:上映の際には、プリントにもこだわったとか。
ファストヴォールド:はい。35mmで撮影した映像から70mmのプリントを作りました。本来、求めていたものに近づけるためです。35mmと70mmの両方のプリントでテスト上映したところ、暗いシーンや、多くのキャストが動き回る大規模なシーンでは、明らかに70mmの方がディテールを得られたのが、最大の理由です。
Q:35mmフィルムでの撮影ということで、アン・リーら信徒がアメリカへ渡る船のシーンなど苦心も多かったのでは。
ファストヴォールド:スウェーデンで当時の船を再現したレプリカを見つけました。もちろんその船は映画の撮影やダンスには不向きです。太いロープの束など障害物も多かった。船を操作する専門のチームを集め、嵐のシーンや大がかりなダンスを限られた日程でこなしたのは、本作で最も過酷なプロセスになりました。船は停泊状態なのでセットのように揺らすことはできません。キャストやカメラの動きで船の揺れを表現するというローテクな方法も、最終的にはうまく機能したと思います。