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『アン・リー/はじまりの物語』モナ・ファストヴォールド監督 自然発生的なミュージカル映画を目指して【Director’s Interview Vol. 555】
宗教の開祖となった女性の文字どおり波乱万丈の人生を、ミュージカルの形式も使って描く。その大胆なアプローチで、未体験の感動を届けることに成功したのが、『アン・リー/はじまりの物語』(25)のモナ・ファストヴォールド監督だ。18世紀のイギリスで生まれ、イエス・キリストの化身だと啓示を受けたアン・リーが、アメリカへ渡り、シェーカー教団のユートピアを築き上げる物語。ファストヴォールドは、これが長編映画監督3作目だが、『ブルータリスト』(24)で製作、共同脚本を務めるなど、ブラディ・コーベット監督とは長年の協力関係にある。この『アン・リー』でもコーベットは脚本に参加した。インテリアなどで現代のアメリカ社会にも深い影響を残しているシェーカー教団の開祖を、どのような思いで映画に仕立て上げたのか。映像のこだわりなど、ファストヴォールド監督に聞いた。
『アン・リー/はじまりの物語』あらすじ
18世紀のイギリス、貧しい鍛治職人の家に生まれたアン(アマンダ・セイフライド)は信仰心の厚い女性として育つ。4人の子供を授かるも、全てを幼くして失うという悲痛な体験の中、自らが“キリストの女性の姿の生まれ変わり”である、確信的な啓示を得る。彼女の性別、人種の平等を説く生き方は多くの人々を惹きつけていくのだったが、反感や警戒を感じる勢力から苛烈な迫害を受けていく。わずか8人の信徒とともにアメリカに渡り、性別、人種の平等信仰をもとにした理想の生活を実現するユートピアを求めるのだったが、そこでも大いなる困難が待ち構えていたのだった。
Index
歴史から抹殺されている女性に光を当てた
Q:シェーカー教の開祖となったアン・リーを、なぜ映画の題材に選んだのか。そこから聞かせてください。
ファストヴォールド:最大の決め手は、アン・リーが他に類を見ないほど重要な人物でありながら、歴史から“抹殺”されていると気づいたこと。ここアメリカでも、彼女の名前を聞いたことがある人はごくわずかです。シェーカー教に関して知られているのは、彼らが作った家具の美しいデザインくらい。ですからアン・リーの人生を掘り起こすことに意義を感じました。
Q:その意義とは、具体的にどんなものですか。
ファストヴォールド:最盛期には6,000人以上の信奉者を抱え、おそらくアメリカ史上でも最大のユートピア社会を築いたアン・リーは、当時、急進的なフェミニストの側面も持っていました。彼女の人生は、まさに今の時代に訴えるべき物語になると思ったのです。考えれば考えるほど現代社会との繋がりが明確になっていきました。その意味で、刺激的で語る価値のある題材だったわけです。

『アン・リー/はじまりの物語』©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved
Q:この映画では、アン・リーが当時の社会から受けた厳しい仕打ちも描かれます。
ファストヴォールド:すべての人が平等であるべきという彼女の揺るぎない信念は、当時の社会にとってむしろ脅威でした。しかも女性として宗教指導者の立場にあることは、現代でも多くの国、多くの宗教では受け入れにくいものです。当時、物議を醸したのは当然でしょう。アン・リーは、人々の怒りの対象になり、攻撃の対象になりました。はっきり言いますが、今回の映画ではそのあたりを抑え気味に描いています。彼女は生涯にわたって何度も投獄され、肉体的な苦痛を味わいました。その残酷なまでの状況は、映画のように生やさしいものではありませんでした。
Q:もしアン・リーが現在同じことを訴えたら、多くの人から賛同されるのではないですか。
ファストヴォールド:そうとも言えません。当時のアン・リーは、ジェンダーの平等や社会経済に対しての不満を訴えていましたが、200年経った今、同じことをアピールしたとしても、まだまだ反発は多い。危険な思想だと断じられる風潮は変わっていない気がします。