「心を得る」までの過程を撮る
Q:短い時間の中でも一郎の成長がしっかりと描かれていました。物語構成はどのように作られたのでしょうか。
香月:どんなジャンルであっても、技術を必要とする職業において、学びに終わりはないと思うんです。でも「心得」という言葉があるように、学びの過程で心を得る瞬間がひとつの大きなきっかけになることがある。そう考えると、一郎の着地点は「着付け師としての心を得た」ところなのではないか。そこをゴールとして、映画を作っていきました。
Q:それで、一郎がゴールに至るまでに起こる、様々な出来事を書き出されたと。
香月:そうですね。でもほとんどが、インタビューの時に教えていただいた「着付け師あるある」なんです。「約束の時間に行ったら全員パジャマだった」とか「子どもがなかなか着てくれない」とか(笑)。教えていただいたエピソードを脚本に盛り込んでいきました。
Q:編集はどのようにされたのでしょうか。
香月:これまでは最初から最後まで自分で編集していたのですが、今回は全体的なざっくりとした編集を私がやって、最終的な細かい編集やカラーグレーディングはカメラマンの池田さんがやってくださいました。「このシーンで何を描きたいのか」を池田さんがしっかりキャッチしてくださっていたので、撮影も編集もスムーズに進みました。
Q:編集していく中で画コンテや脚本と変わった部分はありましたか。
香月:当初は引きの画を使おうとしていた場面を、役者さんがすごくいい表情をしていた別カットに変更したりしました。自分の中で想像していた画と出来上がったものを比べて、構築し直していくことが必要だなと感じましたね。
Q:歌い出しのタイミングが難しそうですが、どのように決められたのでしょうか。
香月:ミュージカルにもいろんな種類があって、歌と歌が繋がっていくようなミュージカルもあれば、セリフの合間に歌が入るミュージカルもある。共通しているのは、登場人物の気持ちが高揚したり、葛藤した時に歌い出すことが多いということ。今作もあらすじを決めた後に「一郎の心が大きく揺れるところはどこだろう」と考えながら、歌を入れていきました。それがハマるとすごく気持ちがいいんです。「ここだ!」という音の切れるポイントやスタートのポイントが、抑揚的な部分でちゃんとあるのだなと思いながら編集していました。
Q:音楽も気持ちよくハマっていて、クセになる曲が多かったです。
香月:嬉しいです。オリジナル曲を作っていただいたのですが、作る段階からたくさん打ち合わせをしていたので、完成するまでかなり時間がかかりました。強く求められている部分でもあったので「絶対妥協したくないぞ」という気持ちがありましたね。
Q:映画祭の大きなスクリーンで、上映されるお気持ちはいかがですか。
香月:無事に完成させられたことと、皆さんに観ていただける日を迎えられたことが良かったなと。そして、この映画がどう羽ばたいていくのかがとても楽しみです。映画は、観てくださる方がいて、育っていくものだということをすごく実感しています。一人でも多くの方に観ていただいて、何かを感じていただけたら幸せだなと思います。
本作『グリーンマン』は6月10日水曜日からオンライン視聴が可能です。詳しくは「SSFF& ASIA 2026」の公式サイトをご確認ください。

監督:香月彩里
宮城県出身。ミュージカル女優として活動し、コロナを機に映像制作をはじめる。初監督作品『ヒューマンエラー』は、MIRRORLIAR FILMS Season7に選出され、2作目『さんぽ道』はSSFF & ASIA 2025で女性監督初のホッピーアワードを受賞。
取材・文:CINEMORE編集部
SSFF & ASIA 2026 公式サイト:https://www.shortshorts.org/2026/