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時代と家族の関係性の中に立ち上がる物語。菊地健雄監督『体操しようよ』【Director’s Interview Vol.11】

時代と家族の関係性の中に立ち上がる物語。菊地健雄監督『体操しようよ』【Director’s Interview Vol.11】


主演・草刈正雄と昭和の父親像



Q:主役の草刈正雄さんは、これまでにもコメディは何本かやっていますが、二枚目を封印したキャラクターは珍しいですね。草刈さんをかっこよく見せないというのは苦労された部分でしょうか?


菊地:衣装合わせの場で、もっと記号的で分かりやすい、さえないお父さんの衣装を用意していたのですが、草刈さんご自身も「俺って何着ても似合っちゃうんだよな」とおっしゃっていました。草刈さんは、実際どんな衣装でも着こなして、かっこよくなってしまう。ただし、すごくお茶目な部分もお持ちで、その部分をこの映画でも出してみたかったのです。


 あまり記号的な方向に行くよりは、猫背であるとか、そんなにダサくないけど娘との関係の中では情けない部分もあるというのを表現することにしました。確かに、草刈さんがかっこよく映りすぎないかと不安もありましたが、草刈さんが積極的にアイデアを出してくださったことにも助けられ、どこか淡々としながらも心情がにじみ出てくるような道太郎というキャラクターができあがりました。


Q:ラジオ体操を始めたばかりの道太郎は、小学生に「おじさん下手くそだね」と言われてしまうほど全然できていないのですが、あの駄目な感じの動きは演出でつけていったのでしょうか?


菊地:ラジオ体操ってちゃんとやろうとすると非常に難しい運動で、ある程度練習しないときれいにはできないんですね。草刈さんは今回誰よりも早く撮影の2カ月前から練習してくださり、撮影に入る頃には指導していただいたラジオ体操連盟の先生たちから太鼓判を押されるくらいになっていて、逆に下手くそなのができるのかなと不安になったほどです。僕のほうからは体を反らす動きでよろけてしまうアイデアを出し、草刈さんもアレンジして膨らませてくださった。下手くそなことをうまく表現するのって難しくて、上達すると下手さって出しにくいのですが、それをさらっとできてしまうあたりは流石でしたね。


Q:世代的にみると、道太郎は典型的な昭和の働く父親像で、娘の弓子や、便利屋で一緒に働くことになる薫くん(渡辺大地)も平成世代です。世代の違いは今回強調した部分でしょうか。


 


菊地:僕自身はギリギリ昭和生まれで、僕の父は団塊の世代なのですが、やはり生まれついた時代によって価値観も影響を受けるのかなというのは日常的に感じることですね。僕にもつい最近娘が生まれたりしたこともあり、親世代が子育てをどうしていたかとか、親世代の理想的な子育てを今の僕らにはできないよなとか、を考えるようになりました。昔は父親だけ働いて奥さんは家を守るのが普通だったとしても、今だと僕の周りを見ても共働きが当たり前で、家族のあり方って時代によって変わっていくわけで、それぞれの世代の異なる価値観がぶつかり合うところにドラマが生まれるんじゃないかなと。


Q:菊地監督のこれまでの作品を通じて、兄弟であったり同級生であったり、近い関係だけれども心が離れていてうまく通い合わない人たちが、大きなぶつかりを経て、少し仲直りしたり分かり合えたりするという、ひとつの傾向を感じます。


菊地:親子でも兄弟でもそうでしょうが、生きてく中でいいことばかりじゃなくて、だいたいどんな家族であれ喧嘩もすれば幸福な瞬間を共有することもあって、それを繰り返しながら生きていくし、それが人生じゃないかと思ったりします。そんなきれいに分かり合えるとか単純なものではないし、そこが面白いところでもある。人間は意外と自分が思っている姿と現実にどこかズレがあり、自分自身のイメージと他人から見た自分のイメージにギャップがあるものです。そういう人間同士が関わるところに面白さを感じるし、映画という表現形式でどうしたら面白くなるのかを追求している部分でもあります。

 


 世代の話にも通じますが、父親と結婚に揺れている娘という関係では、小津安二郎監督の『晩春』と『秋刀魚の味』を見直して参考にしました。もちろんこれらは素晴らしい作品ですが、たとえば『晩春』の笠智衆と原節子の関係を、平成が終わろうとしている今の時代に成立させるのは難しいし、この時代のリアリティーを脚本家の和田君とも議論しながら表現していきました。


 同じような人物配置で話を作ろうとしても、作る時代によってバリエーションとして変わっていくものであり、映画というものが誕生から120年以上経っていても作られ続ける大きな理由なのかなとも思います。それと同時に、気持ちの伝え方や親子の距離感みたいなものが、いろんな部分で少しずつ変わってきているけれど、その中で変わらないものもある。これも考えてみると僕が毎回映画の中でやりたいことのひとつなのかなと。変わっていくものと変わっていかないものがあり、その中でできる物語が立ち上がってくる感じが、今回も大いにあったかなという気がします。



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