伝説のカリスマ雑誌編集者、末井昭の波瀾万丈の半生を映画化した冨永昌敬監督の『素敵なダイナマイトスキャンダル』。カルチャーエロ雑誌出版のハチャメチャな隆盛期を描いた業界実録ものであり、特濃かつ異色の青春映画でもある本作は、日本には珍しい「クロニクル(年代記)映画」の傑作としても注目を浴びた。
そこでDVD&Blu-rayリリースの当日、このクロニクル映画というテーマに焦点を当て、HMV&BOOKS SHIBUYAでの発売記念イベントの直前に時間を作っていただき、監督に話を聞いた。本編の魅力を補完するとっておきのボーナストラックとしてお楽しみいただきたい。
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できることと、できないことを厳密に分けた
Q:本日(2018年11月9日)がDVD&Blu-ray発売ということでおめでとうございます。映像特典にはメイキングに加え、ペーソス(末井昭がサックス奏者として参加しているバンド)のミュージックビデオなども収録されていますね。
冨永:はい。本編公開のちょっと前に、ペーソスが映画公開に合わせてミニアルバムを出してくれて。3月17日公開だったので、2月の頭くらいに三本のMV(『チャチャチャ居候』『夫婦冷っけえ』『忘れないで』)を続けて撮影しました。
Q:いま振り返っても、『素敵なダイナマイトスキャンダル』はやっぱり今年屈指の素晴らしい作品だなと思います。ちょうど本日、英国のロックバンド、クイーンの軌跡を映画化した『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年/監督:ブライアン・シンガー)が劇場公開されましたが、実は『素敵なダイナマイトスキャンダル』とほとんど同じ時代を描いているんですよね。1970年代~80年代という。
冨永:なるほど、確かにそうですね。
Q:クロニクル(年代記)形式の実話物って、いまの日本映画では条件的になかなか厳しいと思うんですね。その中で冨永監督は最大限の成果を挙げられたんじゃないでしょうか。
冨永:今回はできることと、できないことを、あらかじめ厳密に分けたというか。例えば時代設定当時の車が用意できない。70年代や80年代の国産車って本当に壊滅的なんです。各時代の一般乗用車を、自動車メーカーが貸してくれるわけではないから難しいんですね。
唯一あったのは、主人公が少年時代の回想パート(1950年代)で、買い物しているシーンに停まっている三輪トラック。あれは撮影専用によく稼動しているやつで。昭和30年代以前まで遡ると、映画やテレビドラマで出番が多いから逆に残っていたりするんです。
Q:難しいのは高度に都市化されて以降の近過去なんですね。流行のアイテムが次々と移り変わって風景もどんどん変化する。逆にいまのアメリカ映画は70年代や80年代が大人気で、当時の推移を描いた実話物だらけなんですけど。例えば『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/監督:ヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン)でも70年代式のポンティアックがちゃんとカリフォルニアコーストを走っている。
冨永:そのへんの凄さってアメリカ映画は圧倒的ですよね。当時のモデルがばんばん出てくる。僕らはそれができないから、工夫するしかない。だからヌケの画に執着するのは潔く諦めて、例えば室内の情報や雰囲気を徹底的にこだわるとか。フレーム内に綻びが出ないように詰めていくしかない。それはこちらがお願いすれば、美術のスタッフさんたちが驚くほど丁寧にやってくれるんで。画面からわかる年代記に期待されるものという点では、スタッフが全力で応えてくれたと思います。