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日本では珍しい「クロニクル(年代記)映画」破格の傑作。冨永昌敬監督『素敵なダイナマイトスキャンダル』【Director’s Interview Vol.13】

日本では珍しい「クロニクル(年代記)映画」破格の傑作。冨永昌敬監督『素敵なダイナマイトスキャンダル』【Director’s Interview Vol.13】

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ミニマムな日常の映画に、歴史性の軸を導入する



Q:冨永監督の映画って、ある種のクロニクル性……歴史的に物事を捉える視座というのは、実はずっとあった気がするんですよ。長編デビュー作の『パビリオン山椒魚』(2006年)でも、オオサンショウウオをめぐる偽史を物語の背景に導入したりしている。


冨永:『パビリオン山椒魚』ではもともと壮大なフェイクの歴史物みたいなのをやりたかったんですよ。結局は製作条件の現実として、具体的に画面は作れないんで、ハッタリ半分でモノローグとかに歴史という縦の軸を差し入れていく。それは本当に初期の『亀虫』(2003年/短篇連作シリーズ)とかでもやってましたね。


 低予算のインディペンデント映画だと、どうしてもミニマムな規模で、普通の日常をスケッチする、みたいな映画になりがちじゃないですか。でも自分が本来好きなのはそれじゃないっていう(笑)。だけどそういう歴史的な視座が、いま作っている俺の映画に必要なのか?っていう自問自答は最近まで続いていた気がしますね。




Q:小さな映画に、大きな歴史性をぶっ刺していく。そこが冨永映画のユニークな点だという気がします。「諸行無常」感で言えば『ローリング』(2015年)なんかは宇宙的な視座に到達しちゃう。


冨永:主人公が骨になっちゃっても、世界は平気で続いているっていう。年代記ものって、この「まだ続いている」余韻を残して終わるんですよね。だって末井さんもご存命だし、『グッドフェローズ』の実在のギャングスター、ヘンリー・ヒルも最近まで生きていた(2012年に死去。享年69歳)。映画としての物語は終わっても、主人公の人生はまだ終わっていない。だから結論めいたものはボヤッとしていて、ただ諸行無常という円環だけが刷り込まれる。


 いま思い出したんですけど、伊丹十三監督も年代記ものを撮っているんですよね。『あげまん』(1990年)という。芸者あがりのヒロインを当時40代半ばの宮本信子さんが、置屋に売られていく18歳の少女の頃から演じていた。


Q:溝口健二監督、田中絹代主演の『西鶴一代女』(1952年)の系譜にあるような「女の一生」ものですね。伊丹十三さんはヒットメーカーとしての映画監督のイメージが強くなっているけど、その前は文筆からデザイン、俳優までマルチにこなす洒落た昭和のモダニストの代表選手でした。


冨永:憧れますよね。ちなみに伊丹さんは高校時代を愛媛で過ごされていて、僕は故郷が愛媛なんですよ。それでこないだ地元の母校の高校に呼ばれて、創立70周年の記念授業をなぜか僕がやったんです。


 小さな学校なんですけど、学校側の意図としては、いまの若い人たちは映像に興味があると。確かにスマホでの動画撮影が日常的に根付いている時代ですからね。だからいまでいうスマホ撮りみたいな行為を、昔に置き換えると何だろう?って考えた時に、パッと思いついたのが伊丹監督の『お葬式』(1984年)。この映画の中のワンシーンでホームムービーのパートが出てくるんですよ。モノクロの16mm映像で、お通夜の準備で久々に集まった家族の様子をサイレント映画風に撮っている。劇中では青木(津村隆)って男がカメラを回している体裁で、実際このパートを撮影したのは写真家の浅井慎平さんらしいんですけど、それを授業で学生たちに見せたっていう(笑)。


Q:思えば冨永監督が撮られているドキュメンタリー、音響デザイナーの大野松雄さんを中心にした『アトムの足音が聞こえる』(2011年)、『マンガをはみ出した男 赤塚不二夫』(2016年)とつなげると、『素敵なダイナマイトスキャンダル』は「昭和の偉人・怪人伝シリーズ」って言い方もできそうだなと。

 



冨永:なるほど、そうかもしれません。ドキュメンタリーは年代記として撮っていますしね。ミュージシャンの倉地久美夫さんを追った『庭にお願い』(2010年)にしろ。


 ただ映画が完成した後のことですけど、純粋に『素敵なダイナマイトスキャンダル』の原作本だけからシーンを引っ張ってきても、映画にできたのかな?ってことをよく考えましたね。末井さんの若い頃のエピソードだけを、例えば数日間を細かく濃密に突っこんで描くとか。クロニクル形式以外の映画化の可能性もあったはずなんです。


 ただそうなると、「笛子」さんは末井さんとデートしているだけの人になるかもしれない。主人公の数奇な人生を遠くから見るような眼差しは作りにくいですよね。


 年代記仕立てにすることで、活字化されていない末井さんの人生を、僕が勝手に埋めちゃったところがあるかもしれない。だけど自分が末井昭の映画を作るなら、こうなるしかなかったんだと、いまは開き直っているんです。



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監督・脚本:冨永昌敬

1975年生まれ、愛媛県出身。映画監督。おもな劇映画作品は『亀虫』(03)、『パビリオン山椒魚』(06)、『コンナオトナノオンナノコ』(07)、『シャーリーの転落人生』(08)、『パンドラの匣』(09)、『乱暴と待機』(10)、『ローリング』(15)、『南瓜とマヨネーズ』(17)。ほかにドキュメンタリー、オムニバス、ドラマ、MVなど監督作品多数。



取材・文:森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。 





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監督・脚本:冨永昌敬

Blu-ray&DVD  好評発売中

発売・販売元:バンダイナムコアーツ

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

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