柳楽優弥と小林薫
Q:シンイチは、今の若い世代が抱えてる葛藤みたいなのを、すごくリアルに持ってる気がしました。シンイチには広瀬監督自身も反映されているということですが、シンイチの造形はどういうふうにできていったのでしょうか。
広瀬:最初に、哲郎という権威的な人間と、それに従わざるを得ないような、弱い立場の人間(シンイチ)という関係性で構図を考えていて、それから物語を作っていきました。でもシンイチが受け身なキャラクターだったこともあり、彼が主人公になりにくかったんです。シンイチを殺人犯にしてみたり、自分に寄せたりもしたんですけど…。最初の方はテーマが二転三転してしまい、私自身、結構葛藤していました。
でもそのおかげで、殺人とか事件性とか、そういった方向に自分の興味があるわけではないことも明確になり、この物語自体がサスペンスではないことも分かってきました。どちらかというと、ごく普通の青年として、自分自身の持ってる性質などを反映してみたんです。あとは、やっぱり柳楽さんのキャスティングが大きかったと思います。ただ受け身なだけじゃなくて、何かそこから、もがいたり発露していくようなエネルギーをシンイチに宿してもらえたのは、柳楽さんのおかげだと思います。
Q:地方の木工所っていう、ちょっと男臭いコミュニティーを主な舞台にしていますが、こういう男臭い世界を描こうと思ったのは、なぜでしょうか。
広瀬:ああ、そうですね。どうしてでしょうね。結果的にそうなってしまったんですけど。
Q:結果的にですか。
広瀬:社会の権威としての象徴である哲郎と、その従業員というか、権威に従うしかない人間っていう構図を考えた時に、母と娘じゃなく、やっぱり父と息子的な関係性ということで、男性がいいだろうなと考えていたんです。木工所っていうコミュニティーを考えたときに、結果的に男臭い話になってしまいました。
Q:そうですね。まあ、男臭い世界なんだけど、男の何か柔らかい部分を描くのがすごくうまいなと思いました。
広瀬:確かにそうですね。でも、特に柳楽優弥さんと小林薫さんだからっていうのもあったかもしれないですね。薫さんも単に父性の強い男性っていうことだけでなく、何かちょっと女々しい部分を持っていたり、恋する乙女みたいな目をされてる時もあるんです。でもそういうことによって、単に依存関係だけではなくて、とてもいい関係のようにも見えるので、そういう甘さみたいなものは、今の2人だからこそ出せたものなんじゃないかなと思います。