矢面に立って分かったこと
Q:オープニングでは音楽と映像の感じがすごくて、一気に持っていかれました。どのようにして、あのような音楽になったのでしょうか。
広瀬:具体的にどういう音楽の注文をしたか、ちょっと忘れてしまったんですけど(笑)。撮る前からタラ・ジェイン・オニールさんにお願いするということは決めていました。最初は彼女のインストの音楽を仮で当てていたのですが、実際に出来てきた曲は全然違うものになっていたんです。でも全体的に、ちょっと包み込むような、シンイチを見守るような、暖かみのある音楽になっていると思いました。音楽が、単なる暗く渋い映画じゃない要素を出してくれているので、そこは本当に救われていますね。
Q:今までは是枝監督や西川監督の助監督としてついていましたが、今回初めて監督として撮ってみて、あらためて映画作りで感じたことはありましたか?
広瀬:これまでやっていたのは、助監督ではなく監督助手っていうちょっと特殊なポジションだったんです。助監督というのは、スケジュールの管理や現場を進めていくような役割なので、演出を見る余裕がないんです。なので、新人にもちゃんと演出に口出しをさせる役割として、是枝さんが敢えて演出に特化したポジションを考えたのです。
その監督助手を私は3年間やりまして、監督の横にいて、ここをこうしたほうがいいんじゃないですか。とか、ここはちょっと違うんじゃないですか。って、いつもささやいていたんです。周りのスタッフは「また、あいつ何か言ってるぞ」って、多分思っていたと思いますが(笑)。
ささやいた結果、監督を通して現場を止めることにもなってしまうのですが、その意見に対しての直接的な圧を受けるのは私ではなかったんです。矢面に立つのはやっぱり監督なんですよね。監督になってみて、これまで自分がいかに矢面に立ってこなかったかっていうのは感じましたね。
今回初めて矢面に立ってみて、直接役者さんやスタッフと話して、現場をつくっていく必要があったので、最初はプレッシャーでした。しかし一方で、現場に入ってしまうと、作品を通して会話できることが、こんなに楽しいんだって感じました。
自分自身の考えだけだと面白くないので、会話を通して作品が膨らんでいくというか、豊かになっていくっていうのを感じるのが、とても楽しかったです。
Q:では、今回の映画製作はずっと楽しかった感じでしょうか。企画、脚本、撮影、編集、そして宣伝とありますが、大変だったことはありますか?
広瀬:はい。脚本はすごく苦労しましたね。もう駄目だって挫折してしまいそうになる時が何度もありましたけど、反対に現場は、もう楽しくて楽しくてしょうがなくて。
Q:なるほど。
広瀬:ある意味、私、制約が好きなんですよね。
Q:制約が好き?
広瀬:制約があるほうが自由にいられるタイプだと思うんです。決められた場所や決められた時間でやるほうがのびのびやれるので、だからこそ脚本がつらかったんだと思うんですけど。
Q:いつまでも直せますもんね。
広瀬:はい。
Q:撮影現場は制約だらけだと思いますが、逆にそれが自分に合っていたということでしょうか。
広瀬:そうですね。それをいかに楽しむかっていうことに徹するしかないので、現場は楽しかったです。でも、もともと口下手なので、宣伝も大変だなと思ってます(笑)。作品を作っておしまいじゃないっていうのは、監督になって初めて分かったことなので、ほんとに日々鍛錬ですね(笑)。でも、感想を聞いたりとか質問していただくことによって、はっきりと自分自身の言葉になっていったりとか、「あ、そうか。そう思ってたんだ」って改めて気づくこともあります。全然予想外な感想をいただくこともあるので、そう言われて作品が育っていくということは、とても面白い過程だなと思っています。