演出の面白さとは
Q:現場がとにかく楽しいということですが、具体的に映画作りのどういうところが面白いのでしょうか?
広瀬:具体的に言うと、シンイチが初めて自分のことを告白するシーンがあるんですが、脚本のト書きには、シンイチが自分の頬をたたいていて、それを哲郎が止めるとだけ書いてあったんです。でも、現場で実際にやっていただいたら、薫さんがいきなり柳楽さんを抱きしめたんですね、何の予告もなく。それがすごくびっくりして。その効果もあって、肩の力が抜けるように座り込んで話しだした柳楽さんが、とても繊細なお芝居になってましたし、哲郎を見上げた時には、ちょっと救われたような、でも、ちょっと恨めしそうな微妙な顔をされていたんです。そういうふうにお芝居がお芝居を生むというか、化学反応みたいなのを肌で感じることができて、それもとても面白かったですね。現場ではそういう瞬間が随所にありました。
柳楽さんはこれまで個性的なキャラクターの役が多かったこともあり、今回は役を固めて臨むのではなく、なるべく考えずにその場にいるっていうことに徹してくれたんです。それがある意味演出の指針になったんですね。だから、柳楽さんをいかに揺さぶるか。周りをどう動かして圧を与えて、揺さぶって、どうやったらよりよいリアクションを引き出せるかっていうことを、その場で考えていくことができたんです。ああ、演出ってこういうところが面白いんだっていうのを、日々体験して感じることができて、それがとても面白かったです。
Q:柳楽さんは、すごく揺さぶりがいがありそうですね。
広瀬:揺さぶりがいがあります、本当に(笑)。揺さぶれば揺さぶるほど出てくる人なんで。
Q:すごくよかったですよね。演技かどうか境目が分からなかったくらいです。
広瀬:そうですね。足りない時は、もっとくれ!みたいな感じなので(笑)。
Q:柳楽さんが?(笑)
広瀬:はい。じゃあ、どうしたらいいんだろうってことを、みんなで考える。みんなが妥協せずに現場でものづくりができる姿勢でいられたのが、本当にありがたかったです。
Q:時には小林薫さんが揺さぶるみたいに、みんなで揺さぶったんですね。
広瀬:そうですね。みんながSになって柳楽さんを揺さぶってました(笑)。
Q:柳楽さんにとっても、幸せな現場ですよね。
広瀬:いや。でも、それは怖いことだと思います。柳楽さんは、丸裸にされてステージに立ってる気分だったって、先日おっしゃってました。
Q:そうなんですね。
広瀬:でも、そういう状態でいてくれる勇気というか、それはすごいなと思いますし、ある意味本当に私を信じて、作品を信じてやってくれていたことだと思うので、そういう関係性を結べたこと自体がとてもうれしいですね。
Q:この作品をきっかけに今後も映画を作っていかれると思いますが、どういった映画を作っていきたいですか。
広瀬:今回は、主人公を私に寄せざるを得なくなってしまったので、ちょっとそこから離れたいなという気持ちがあります。できるだけ自分と全く違う他者を知りたいですし、もっと他者を想像して作っていけるような、そういう幅のある監督になっていきたいなと思っています。
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監督/脚本 広瀬奈々子
1987年生まれ。神奈川県出身。武蔵野美術大学映像学科卒業。2011年から制作者集団「分福」に所属。監督助手として是枝裕和監督「ゴーイング マイ ホーム」(12年/関西テレビ・フジテレビ)、『そして父になる』(13年)、『海街diary』(15年)、『海よりもまだ深く』(16年)、西川美和監督『永い言い訳』(16年)に参加。本作が映画監督デビュー作となる。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『夜明け』
1月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
製作:バンダイナムコアーツ、AOI Pro.、朝日新聞社
配給:マジックアワー
公式サイト: yoake-movie.com
(c)2019「夜明け」製作委員会