3月9日(土)から公開の、斎藤工が主演する『家族のレシピ』。本作はシンガポール・日本・フランス合作という珍しい制作体制が生み出した作品だ。監督はシンガポール人のエリック・クー。これまでカンヌを始め、世界三大映画祭に作品を送り出してきた、シンガポール映画界を代表する名匠だ。そんな彼が描いたのは、日本のラーメンとシンガポールのバクテーという庶民の料理にまつわる家族の物語。日本とシンガポールの間に横たわる痛ましい記憶を乗り越え、家族の再生を描き出した本作は、松田聖子や伊原剛志という強力なバイプレイヤーにも支えられ、不思議な温かさと、「食感」をまとった必見の作品である。来日したクー監督に、斎藤工との絆、作品に込めた思いを語ってもらった。
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コミュニケーションツールとしての「食」を通して描く、家族の物語
Q:『家族のレシピ』は日本とシンガポール、2つの国を舞台にしています。このような物語になったきっかけは何だったんでしょう?
クー:本作のプロデューサーである橘豊さんのお父様はシンガポールで育った方でした。そんな彼から私にシンガポールと日本の外交関係樹立50周年(2016)を記念する作品を撮らないか、とオファーがあったんです。
私は日本文化への強い愛情があるので(※) 、私が特に魅せられている日本の食文化と美的感覚、そういったものを盛り込む作品に挑戦しようと思いました。食に関する物語にするというアイデアは、すぐに思い付きました。
※エリック・クー監督は、「劇画」の生みの親である漫画家の辰巳ヒシヒロ原作のアニメ作品『TATSUMI マンガに革命を起こした男』(11)を監督。全編日本語で製作した。
Q:映画を拝見して、「食」というものを、コミュニケーションツールとして監督がとても重視していることが分かりました。中でも今回は、ラーメンとバクテーという料理を題材に選んだ理由は何ですか?
クー:バクテーもラーメンも共に最初は質素な料理でした。バクテーは、中国の潮州という所からシンガポールに移民してきた人達が食べていた料理でした。彼等はほとんどがクーリーという港湾労働者で、肉を買う金銭的な余裕がなく、タダ同然の少しだけ肉がついた豚のアバラ骨を手に入れ、それをハーブと一緒に煮込んでスープを作りました。それがバクテーの始まりです。
日本のラーメンも今ではとてもグルメな料理になっていますが、元々は屋台で食べるものでしたよね?シンガポールでもラーメンはとても人気で、ラーメン店は180以上あると言われており、私も醤油ラーメンが大好きです。シンガポールでは友達と飲みに行くと〆はバクテーという習慣があるんですが、日本でもラーメンは同じような位置づけだと思います。
2つの料理にはそういった共通項がたくさんあることに気づいたんです。そして斎藤工さんが演じた主人公の真人は、中国人と日本人の両親を持っています。2つの国と2つの料理。食べるという行為は郷愁をはじめ様々な思いを甦らせます。離れ離れになった人々をつなぐのが食だと思います。そんな理由から2つの料理を選びました。