楽しい霊界とゴス・アイドルのリディア
もとから『ビートルジュース』が好きだったのは、途方に暮れた幽霊夫婦が相談に行く、霊界の役所の様子がめちゃくちゃ楽しいから。受付には「ミス・アルゼンチン」のたすきをかけながら、手首にぱっくり切り傷のある女性。待合室で延々と待たされている死者たちは、マジック・ショーの衣装で上半身と下半身が切り離されてしまっている女性、頭をりんごサイズに縮められた探検家、タバコを吸っている全身丸焦げのひと、身体に大きなサメが食いついたままのダイバーといった具合で、全然説明はないが、なんで死んだのかがなんとなくわかるおもしろい図。ちなみに受付のひとが手首を切っていたり、書類を運ぶひとが首を吊った状態でレールで行き来していたりするが、これは劇中でグレン・シャディックスが口にした「自殺するとあの世で役人をやらされる」という発言に繋がる。
それから、やはりウィノナ・ライダーが演じるゴス少女リディア。『アダムス・ファミリー』でのクリスティーナ・リッチ扮するウェンズデーと並ぶゴスのアイコンだと思う(実はリディアの継母役には当初、ウェンズデーの母親役だったアンジェリカ・ヒューストンが予定されていたらしい)。少なくともぼくはアイドルという言葉からこのふたりを連想する。するようにしている。リディアは、のちのバートン作品にも数多く登場する「不機嫌そうな少女たち」の初代に当たると思うが、典型的なゴス像とバートン的ダークサイドを体現するキャラクターとして一番わかりやすい。
リディアは両親とそりが合わない孤独なティーン・エイジャーだが、一家で唯一霊感を持っており、幽霊夫婦と接触することから物語の中心に引き込まれていく。最終的には彼女が危機に瀕した幽霊夫婦を助けるために、ビートルジュースを召喚(三度その名を唱えるというどこかで聞いた設定)して物語はクライマックスを迎える。ビートルジュースとリディアのコンビは映画のあともアニメ・シリーズで主役を張って騒動を繰り広げる。トラブルメイカーの幽霊とゴス少女のコンビが、本来メインであるはずの夫婦よりも作品のアイコンとして強いのは仕方がない。