それでもやっぱり生身の人間がすごい
しかし、着ぐるみでもパペットでも、はたまたCGでもない生身の人間が身体だけ(それとほんのちょっとのメイク)を使って演じたエイリアンがいちばん強烈かもしれない。ヴィンセント・ドノフリオ扮するエドガーである。
エドガー自身はエイリアンではなく、妻に当たり散らす乱暴な農夫なのだが、凶悪な昆虫種族バグによって内臓を食い尽くされ、その皮をバグの変装に利用されてしまう。もちろん映像としてはドノフリオが変わらず演じ続けるのだが、その挙動は本当に「自分の身体を別の生き物が着ていたら」といった具合で、まさに怪演。子どもの頃は結構怖かったなあ。のちにその正体を現すバグの姿をドノフリオが知っていたのかどうなのか、とにかく人間とは全く形の違うやつがぎこちなく動かしているという感じがすごい。
クライマックスにて、エドガーの皮を脱いで現れたのは巨大なゴキブリ型のエイリアン。全身茶色くて光沢があり、カサカサと音を立て、口には無数の鋭い歯が生えていたりと、これはこれでもちろん怖いのだが、蒼白な肌に濁った眼、ドロドロに汚れたオーバーオールを着て、前述のようなぎこちない動きで暴れる人間の姿のほうが、言い知れぬ怖さがあったのは確かだろう。
正体を見せたバグとの格闘で印象的なのは、宇宙船に乗り込んで逃走しようとするバグの尾にウィル・スミスがしがみつくところ。バグはフルCGのモンスターだが、このシーンは本当にJがその身体にしがみついているように見える。バグは彼を振り落そうと尾をくねくねと振り回すのだが、Jの身体もそれに合わせて揺れ動くのだ。ILMのメイキングによれば、このシーンは実際にはブルーバックの中で、バグの尾と同じ太さの青い枕状のものに俳優がしがみついていたらしい。このシーンのリアルさは、派手に揺り動かされたウィル・スミスのリアクションにあったようだ。
様々な工夫によって生き生きとしたエイリアンたちが描かれているが、それらは20年経っても全然色褪せることのない出来で、本作が優れた特撮作品だったのだとわかる。けれど、そこには人間の演技も欠かせないのだなと改めて思った。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。