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  3. 人と人との結びつきよりも、ディスコミュニケーション、つまり「溝」の方への関心が強いんです。『よこがお』深田晃司監督【Director’s Interview Vol.35】
人と人との結びつきよりも、ディスコミュニケーション、つまり「溝」の方への関心が強いんです。『よこがお』深田晃司監督【Director’s Interview Vol.35】

人と人との結びつきよりも、ディスコミュニケーション、つまり「溝」の方への関心が強いんです。『よこがお』深田晃司監督【Director’s Interview Vol.35】

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筒井真理子と組みたくて主人公の性別を反転させた



Q:過去の作品では、セックスは孤独を際立たせたり、家族やコミュニティが壊れる予兆として扱われていたように思うんですが、『よこがお』だともっとアグレッシブな道具で、ダイレクトに復讐の手段として使われていますよね。


深田:『よこがお』はまずミラン・クンデラの『冗談』という小説からインスパイアされていて、セックスを用いて復讐するという展開があるんですが、主体が男性なんですね。それをひっくり返して主体を女性にすることで、性行為、セックスというのを、女性がすごくドライに、ひとつのツールとして扱うことができるっていうのは、面白味としてあったのかなとは思いました。まあ市子はたまたま女性だったというだけで、男性が同じようにドライにセックスを扱ってもいいんですけど。


自分は富岡多恵子の小説に大きく影響を受けているんです。彼女の描くセックス観が好きで、例えば彼女の「波うつ土地」という作品は不倫カップルの話なんだけど、そこで描かれるセックス観は異様なまでにドライなんですね。結局は発情した生き物がいるだけで、恋だとか愛だとかでごまかしたりすること自体を嫌悪しているっていう内容なんです。やっぱりそこの価値観の方が自分にはしっくりくる気がしていて、映画の中でもそれくらいのドライさで「性」を扱いたいっていうのは一貫してありますね。




Q:主人公の性別を反転させたのはメッセージのような意図はあったんでしょうか?


深田:男女を取り替えたのは、ただ単に筒井真理子さんとまた映画を作りたいというのがスタートラインにあったからなんです。世の中の先入観や、自分自身の先入観をリセットしたいという気持ちももちろんあるんですけど、今回に関してはまあ偶然ですね。女性が復讐する話自体よくありますし、正直、そこは取り立ててフォーカスするようなトピックではないとは思ってます。むしろ彼女にとっては復讐がひとつの生き甲斐になっていくんだけど、結局、長い人生の中での、無為な人生の中での空回りでしかないという諸行無常の方が自分にとって関心事ですね。


Q:今回は筒井真理子さんありきの企画ということですが、一緒にお仕事をされる上で、筒井さんのどこが凄いと感じていますか?


深田:中年男性はすぐ野球に例えると言いますけど(笑)、天才という意味ではイチローみたいな天才だと思ってます。第三舞台という劇団の生の舞台に立ってきて演技がすごく研鑽されてますし、経験もあるしセンスがいい。にもかかわらず、ものすごく努力する。彼女の台本を見るとびっしりと演技にまつわるメモが書かれているんです。今回のような看護師を演じる上での取材も怠らないし、とにかく徹底して準備を行うんです。だからこそどんな役でも安心してお願いできると思っていて、今回、脚本を書き始める前から筒井さんにオファーをして、まだ脚本もない段階でオッケーをもらえたことはとても大きかった。脚本家としても映画監督としても、ものすごく大きくて自由なキャンパスをもらったようなものなんです。




二面性を持つ登場人物の過去と現在を並行させて描いていくやり方も、俳優への確信がないと怖くて脚本を書けない。でも、筒井さんだったら間違いなく、真剣に取り組んでくれるし演じてくれるだろうという想いがあるので、あれだけ主人公を追い詰める脚本を書けたのかなとは思ってます。ほぼ出ずっぱりだし、筒井さんは本当に大変だったと思いますけど(笑)。


Q:ラストシーンの撮影では、監督も筒井さんの役作りに驚かれたそうですね。


深田:はい。撮影現場で「ちょっと時間ください」と言われたんですね。こっちとしてもラストだし、撮影用の車を運転するのも筒井さんご自身だから、筒井さんの気持ちができたらスタートしてくださいという感じだったんです。それでもわずかに五分あったかないかくらいだったと思うんですけど、筒井さんが台本をシーン1から見直していたんですよね。シーンをほぼすべて反芻していたらしくて、すごいなと思いながら「そこから!?」ってさすがにみんな突っ込んだっていう(笑)。


器用にこなす俳優ではないっていうのも魅力だと思うんですよ。どっちかっていうと良い意味で不器用な方だと思うんですよね。手癖で演じたり、なんとなく演じることで形にするような演技はしない。本当に役に向き合って、役を生きるにはどうしたらいいかと考えるから、こちらも簡単に演じてくださいとは言えないし、それがこっちとしても面白いんだと思うんです。何が出てくるかもわからないですし。




Q:筒井さんが演じたことで市子のイメージが変わったり、何か予想外のことがもたらされた要素はありましたか?


深田:それはあります。ネタバレになるので説明しづらいんですけど、例えば市子が基子(市川実日子)とインターホン越しに話す場面があって、その時の市子の演技が自分の想定を超えるくらいアクティブというかアグレッシブで、そのまま採用させてもらったりもしました。


筒井さんが市子に血肉を与えてくれたことで、自分が思っていた以上に怒りを湛えたキャラクターになりましたね。その怒りはもしかしたら、多くの人の共感に繋がるのかも知れないとも思います。



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