『タクシー・ドライバー』のタクシー
変わり種が続いたので最後はわかりやすくタクシーがタイトルロールの作品を。『タクシー・ドライバー』でロバート・デ・ニーロ扮するトラヴィス・ビックルが運転する、黄色くて丸っこいフォルムに白黒のチェック柄が入ったチェッカー・タクシーキャブは、イエローキャブの代名詞。70年代が舞台の本作では、同じニューヨークでも『ティファニーで朝食を』に登場したような大きなフォードやプリムスのタクシーはすっかり姿を消しており、街中を這い回っているのはこのタクシーキャブだ。50年代後半に登場して80年代に製造が終了するまでほとんど変わることのなかったその完成されたフォルム、まさに『フィフス・エレメント』の未来タクシーのご先祖様だ。トラヴィスもまた元海兵隊という設定なので、それも込みでコーベンと彼のタクシーは『タクシー・ドライバー』のSFコメディ版とも言える。
ベトナム戦争帰りで不眠症に苦しむトラヴィスが、タクシー運転手として夜のニューヨークを流す中で不満や孤独を深めていき、やがて銃で武装して内に秘めた危険なエネルギーを発散させようとする様を描いた『タクシー・ドライバー』。トラヴィスは低い視点から街を観察することによって嫌悪感と不満を募らせ、狂気に走っていくわけだが、街を間近に感じられるその視界はタクシーだからこそかもしれない。
ときにアイコンとして、ときに物語を運ぶ装置として映画に登場するタクシー。ここに挙げた3本の映画、3台のタクシーはそれぞれ全く趣きが違うが、どれもニューヨークを舞台にした作品で、どれも黄色いタクシーだ。どんなに時代や世界観が違っても、必ずそこにいて、様々な役割を演じている黄色い車は、映画にとって大切なキャラクターだと思う。トレードマークが確立されているからこそ、個性の違いが際立つのも楽しい。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。