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『ティファニーで朝食を』のタクシー
洋画を観ていると黄色いタクシーはお馴染みの存在である。単なる移動手段でしかないときもあれば、カーチェイスを繰り広げたりもして、その役割は様々だが、いずれにしても大勢の登場人物たちの足となる身近な存在だ。
『ティファニーで朝食を』でもタクシーは印象的。作品名を聞いて誰もが真っ先に思い浮かべるであろう、黒いドレス姿のオードリー・ヘプバーン扮するホリー・ゴライトリーが早朝のショーウィンドウを眺める冒頭のシーンも、彼女が黄色いタクシーに乗ってやってくるところから始まる。その後、劇中には何度もタクシーが登場し、ラストシーンもまたタクシーから雨の中に降りる展開となる。ほとんど影の主役と言ってもいいだろう。ニューヨークの風景の中に組み込まれた、当たり前の、そして欠かせない存在であることもわかる。もっとも、ホリーはなんとも思ってなさそうだが。
この映画でのタクシーがおもしろいのは、その大きさ。イエローキャブと言われて思い浮かべる、丸みを帯びたタクシーも登場はするが、印象に残るのはアメ車と言われて連想する、平べったくて大きくて、ロケットのようなテイルフィンがついているような車である。タクシーらしさと言えば黄色く塗られているくらい。年代を感じさせるだけではなく、その大きさの利点がストーリーに活きてくるのも興味深い。ホリーはこの巨大なタクシーの中ですいすいと服を着替えてしまうのだが、広い車内だとああいうのも楽なんだろうなあ。もちろんホリーにとっては車内が広かろうが狭かろうが関係ないだろうけれど、だからこそ彼女の奔放な性格を受け入れる広さが、文字通りの広さが、あのタクシーにはあったのだと思う。