重力の制約、人形の制約
ストップモーションのアニメートは実物を使っている以上、必ず重力という制約を受ける。金属製の関節が入った人形は、持ってみるとずしりと重い。歩きなど重心が不安定になる演技をさせるには、倒れないよう支えが必要だ。
そこで「吊り具」という専用の器具を使う。ボビンからテグス(糸)を繰り出し、人形に引っ掛けて上から吊る。体重を支えられ、重力から解放されてはじめて、軽やかに歩く演技をつけることができる。
しかし吊り具も万能ではない。ひらけた所を歩くカットは、人形の頭の上が空いているので吊り具を使うことができるが、家の中など天井があるシーンでは使えない。人形の体に棒を刺して支えたり、足にピンを刺したり、カットごとに様々な方法で固定をする。実はこの固定作業が、ストップモーションアニメーターがもっとも頭を悩ますところだと言っても過言ではない。
制約は人形の身体の中にもある。『ごん』では、火縄銃を撃つシーンが何度か登場するが、銃を構えるには、耳とくっつくほど肩を上げなければならない。人間にはたやすい動きだが、人形ではそうはいかない。肩の関節の可動域を大幅に広げる必要があった。
通常のアーマチュア(金属関節)の設計なら、腕の付け根に球体関節が1つ入っているだけだが、今回は首の付け根あたりにも球体関節を入れ、肩全体を大きく動かせるようにした。
この改造によって、肩でハァハァと息を切らしたり、首をすくめるなど、従来はできなかったアニメートもできるようになった。一つの制約をクリアすることで、さらに他の効果も生み出すことができた好例である。