制約と戦って生まれるもの
八代監督は画づくりに対して妥協がない。そのこだわりは時に、アニメーターとしての八代監督を苦しめることになる。
ストップモーションではどんなシーンでも、アニメーターが直接人形に触ることができなければならない。だが家の中のシーンは四方を壁に囲まれている。カメラに映らない方の壁を取り外したとしても、手を入れられる範囲は限られる。八代監督のアニメートを見ていると、しばしば、かなり苦しい体勢でセットの中に身体をねじ込んでいた。
八代:「コマ撮りのセットは、普通はアニメーターの作業しやすさを考慮して作りますが、僕は自分でアニメするので、画づくり重視でセットを組みます。アニメがやり辛くても自分に返ってくるだけだからいいかなと。」
アニメートのやり易さを優先して、妥協した画にしたくはない。しかし、もしそれでアニメートがうまくいかない時はどうするのだろうか。
八代:「難しいセッティングにして、もしアニメートが思うようにできなかったとしても…その裏には、挑戦した部分があるんです。例えばアニメートが100%のうち80%の出来になっても、その他の部分…カメラワーク、照明、アングルが120%うまくいっていて、そこが見る人の心に引っかかるようなものになれば、総合的にそのカットは成功してると思います。それに作り手側が粗相(失敗)をしたと思っても、必ずしもそれが悪いとは限らない。それが見ている人に『本当に手で作ってるんだな』と思わせる、プラスに取ってもらえる粗相になっていたら理想ですね。かっこいい粗相、とでも言いますか」
ウェス・アンダーソン監督の『ファンタスティック Mr.FOX』(09)では、動物の人形が数多く登場するが、アニメーターが触れるたびに毛並みがザワザワと動いてしまうのを、ウェス・アンダーソンは”ストップモーションの魅力”だと言ってあえて残したという。”粗相”をプラスにする、八代監督の考えに近いと感じた。
CGの技術が向上した現代、ただ綺麗な映像を観ても観客は驚かなくなった。しかし、動かないはずのものが命を持ったように動き出した時に感じる楽しさは、誰の心にもあるものだろう。たくさんの制約と戦うことで生まれた少しの違和感が、かえって「実物の人形が動いている」ことに説得力を持たせ、映像に魅力を与えてくれる。それがストップモーションの大きな強みなのである。
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少数精鋭、アナログ主義。Tecarat独自の制作スタイル『ごん GON, THE LITTLE FOX』メイキングvol.6
八代監督の作品制作はいつも少数精鋭型だ。限られた人数で制作することのメリットとは何だろう。また、雨や煙や、そんなところまで!と驚くほどアナログ表現にこだわる、独自の撮影方法の裏側も公開。
取材・文:池浦 蓮介
1988年生まれ、東京都出身。高校生の時に観た『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』をきっかけに、ストップモーションアニメの世界にのめり込む。大学卒業後、映像制作業のフリーランスとして活動中。
『ごん GON, THE LITTLE FOX』
(新美南吉「ごんぎつね」原作)
2019年秋公開予定 上映時間:28分
制作・著作:太陽企画/エクスプローラーズ ジャパン
公式サイト: http://gon-project.com/
公式twitter: https://twitter.com/gon_tecarat