大人たちさえ巻き込んだ冒険
物語の中心は確かに子どもたちで、その小さな世界が魅力だけれど、同時に描かれる大人たちも重要だ。前述の警官やスカウトの隊長、スージーの不仲な両親といった島の大人たちは、サムとスージーが逃げ出そうとする現実世界そのものを背負っていると言えるが、騒動を通して大人たちの世界にも変化が訪れる。トレーラー暮らしの孤独な警官は身寄りのないサムを引き取り、気弱なカーキ・スカウトの隊長は嵐の中で突如発揮したリーダーシップを認められ、スージーの両親の破綻寸前だった夫婦生活もなんとか持ち直す。嵐が過ぎ去ると破壊の跡は復興され、その年は豊作となったが、人々の中にも変化とともに新しい芽生えがあったようだ。
島に訪れた変化は、当然少年少女たちにとっても大きなものとなり、冒険は忘れられない思い出となるだろう。淡く黄味がかった画面は物語全体を思い出として印象付けるだけでなく、たとえ似たような経験がないひとにも、その子ども時代の記憶を呼び起こさせる力を持っていると思う。こうだったらよかったなと思わせもするだろう。かわいらしい衣装、ツリーハウスでの秘密会合、クールな遊び、恋の逃避行、キャンプ、海辺、わかってくれたりくれなかったりする大人たち。だからこの映画に個人的な想いを持つひとも少なくないはずだ。少なくとも、ぼくはこれがまるで自分のもうひとつの子ども時代のように感じられてならない。登場するのと同じ黄色いトランクを持っていなくとも、はっきりそう言えると思う。8月から9月へと変わっていく夏とも秋ともつかない時期に、特に観たくなる大好きな映画だ。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。