97年に『一瞬の夢』でデビュー後、ヴェネチア映画祭グランプリ受賞の『長江哀歌』(06)やカンヌ映画祭脚本賞受賞の『罪の手ざわり』(13)など国際的に高い評価を受ける作品を撮り、現代中国を代表する実力派監督となったジャ・ジャンクー。社会の裏側にもカメラを向けるため、中国では上映禁止になった作品もあったが、最新作『帰れない二人』は本国で過去最高のヒット作となり、アメリカでの興業も好調。シネアスト好みのアート系監督のイメージが強かった彼の作品群の中では最も分かりやすい内容になっている。
渡世人として生きる男と女の17年間に渡るラブストーリーが描かれ、監督のミューズとして知られるチャオ・タオと『薄氷の殺人』(14)でベルリン映画祭主演男優賞受賞のリャオ・ファンがそれぞれ好演を見せる。新境地ともいえるこの新作について来日した監督が語ってくれた。
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現代中国を舞台にした17年間のラブストーリー
Q:今回の作品を撮ろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
ジャンクー:最初は中国の裏社会について脚本を書こうと思いました。1949年以前、つまり新体制による中国誕生前には、裏社会の人々が活発に活動をしていました。ところが、体制が変わってから、そういう人々は消滅していったのです。そして、文化大革命(66年)が起こりますが、それが終わった頃(77年)、私は7歳でした。当時、街には多くの失業者がいて、仕事に就けずにグレていく人々もいました。彼らは新しい裏社会のグループを作り始めたんです。底辺で生きている彼らに私は興味を持ちました。
Q:あなたの過去の作品、『青の稲妻』(02)や『長江哀歌』でチャオ・タオが演じた女性像もふまえた構成になっていますが、その点についてお話いただけますか?
ジャンクー:脚本を書いていて気づいたのですが、チャオ・タオの出演していた『青の稲妻』は01年、『長江哀歌』は06年が舞台で、今回の作品もこうした時代と重なっているんです。男女のラブストーリーが描かれていますが、どうして彼らが知り合って、別れていったのか、そういうことは詳しく語られていません。今回はこの二作に登場した人物像をふくらませ、ヒロインの名前も『青の稲妻』のチャオチャオにすることで、かつては描けなかった男女の関係を掘り下げることにしました。
Q:01年に始まり、18年の年明けに終わります。17年という長いスパンの物語ですね。
ジャンクー:私が本格的に映画を撮り始めたのは97年からで、これまで短い期間の物語を描くことが多かったのですが、今回は長い時間が流れていきます。よりマクロな視点を持ち込むことで人物をとらえようと考えました。
Q:『青の稲妻』で描かれた01年には北京オリンピックが決まり、『長江哀歌』が舞台の06年には山峡ダム本体が完成。どちらも中国の歴史の転換点が舞台ですね。
ジャンクー:この40年間の中国の変化には激烈なものがあります。それは欧米の100~200年に匹敵する変化ではないかと思っています。01年は新しい世紀の始まりというだけではなく、確かにオリンピックも決まったし、WTOにも加入したし、インターネットが社会に入り始めた時代でもあり、その中で多くの人のライフスタイルが変わっていきました。激変する社会の中で生きている人々の運命に、私は興味があります。