獣と人。越えられないふたりの垣根
Q:ごんは人間の子供のような姿で登場しますが、擬人化したのはなぜですか。
八代:文章だと心の中も言語化して説明できるから、読者が感情移入しやすいのですが、映像だとそれができない。見ている人に感情移入してもらうには、擬人化するのが一番わかりやすいし、自然だなと思ったからです。脚本を書いてもらう前から、擬人化するのは決めていました。
Q:ごんはシーンによって擬人化した姿になったり、獣の姿になったりしますよね。
八代:原作はほぼごんの一人称で進みますが、『ごん GON, THE LITTLE FOX』では、ごんから見た世界と、人間から見た世界、ふたつの視点を描いています。
ごんは感情移入すれば人のようにも見えるが、兵十たちの世界から見ればただの獣。そういう描写もしっかりあった方がいいと思いました。
Q:前作までの共通点として、『ノーマン・ザ・スノーマン』では雪だるま、『眠れない夜の月』(15)ではリスと、人間と非人間の交流の話が続いています。そういった構成に特別な思い入れがあるのでしょうか。
八代:そういう点では逆に「ごん」は前作までとはっきり違うと思っています。雪だるまやリスは、言うなれば人間の延長だったんですよね。今回のごんは、獣と人間という、それぞれの世界の間に垣根がある。
Q:別世界からきた人間に近い立場のもの(ノーマンやリス)と、同じ地平にある別の生き物同士(ごんと兵十)の違いということでしょうか。
八代:そうです。これまでのキャラクターは姿形は人間じゃなくても、人間と通じあうことができました。今回は違う生き物間、通じないもの同士の話。現実で言ったら、人種や宗教の違いになるのかな。お互いのことを思い測れなくなる垣根があることで、争いが起きてしまう。
ごんも兵十も、それぞれの正しさや優しさで動いているんです。そこに獣と人間という垣根さえなければ、もしかしたら通じあえたかもしれないけれど、それが叶わず悲劇が起きてしまう。それは原作でも変わらないテーマだと思います。