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『パティ・ケイク$』〈ホワイト・トラッシュ〉の生き様を通して描く、新たなコミュニケーションの可能性 ※注!ネタバレ含みます。

(c) 2017 Twentieth Century Fox

『パティ・ケイク$』〈ホワイト・トラッシュ〉の生き様を通して描く、新たなコミュニケーションの可能性 ※注!ネタバレ含みます。

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ベストセラーから読み解く〈ホワイト・トラッシュ〉と映画の関係



 2016年、アメリカで大ベストセラーとなった一冊「 ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」(翻訳:関根 光宏/光文社)。本書はヒルビリー(田舎者)と呼ばれる、アメリカ南東部アパラチア山脈周辺に住む白人低所得者層のリアルな生活を描き、読者に大きなインパクトを与える。著者のJ.D.ヴァンスはケンタッキー州の貧困家庭に生まれ、そこでの実体験を小説のように綴っている。早くに父と離婚した母はアルコールと薬物に溺れ、恋人をとっかえひっかえしている。彼の心の支えは38口径の銃を常に携帯し周囲を威嚇する強面の祖母。この祖母がヴァンスに勉強することの大切さを教え、彼はハーバード大学のロースクールに進学。貧困家庭の負のスパイラルから脱出する。



 『パティ・ケイク$』(c) 2017 Twentieth Century Fox


 この本で描かれる家庭環境は『パティ・ケイク$』の設定に酷似している。パティの母も離婚し、夜毎バーで飲んだくれ、いきずりの男と関係を重ねる。そんな母はラップに夢中になるパティを鼻で笑うが、一緒に暮らす祖母はパティの才能を認め励ます。つまり、『パティ・ケイク$』は典型的な〈ホワイト・トラッシュ〉の家族の姿を描いているのだが、「ヒルビリー・エレジー ~」との共通点で特に印象深いのは家族の関係性だ。彼らは家族とその名誉を守ることを第一に考え、自分の家族を侮辱した人間に銃を向けることも厭わない。しかし矛盾したことに、そんな家族の間でも暴力がたびたび行使されてしまう。著者のヴァンスも少年時代に母から度々暴力を振るわれた。しかも母が麻薬検査にひっかからないよう、自分の尿をよこせとまで言われている。しかし彼はそんな母との関係を放棄することなく、家族としての絆を保ち続けようとする。


  『パティ・ケイク$』のテーマも正にそこにある。パティはラップを通じて壊れかけた母との関係を再構築しようと試みる。それは人と人のコミュニケーションの根源的な在り方を模索する過程でもあり、〈ホワイト・トラッシュ〉映画が常に描き続けてきた大きなテーマでもある。



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