© 2001 New Line Productions, Inc. © 2001 Fine Line Features. All rights reserved.
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』ジョン・キャメロン・ミッチェルが吐き出した奇跡
2017.10.31
キャラクターの創造主が監督・脚本・主演を務めた奇跡の映画化
舞台は大成功を収め、映画化され、後にブロードウェイにも進出した。ジョン・キャメロン・ミッチェルがステージで“ヘドウィグ”を演じたのは1999年まで(2015年に一時的に復帰)。その後は別の俳優に引き継がれ、『ブレックファスト・クラブ』(1985)の女優アリ・シーディ、『ゴーン・ガール』(2012)のニール・パトリック・ハリスや『デクスター 警察官は殺人鬼』(2006~2013)のマイケル・C・ホールらも“ヘドウィグ”を演じている。2015年には『シカゴ』(2002)のタイ・ディグスが黒人俳優では初めて“ヘドウィグ”として舞台に立った。
また、世界中で各国語バージョンが作られている。日本では三上博史、山本耕史、森山未來がステージで“ヘドウィグ”を演じている。いうなれば、千人が演じれば千人の“ヘドウィグ”ができあがる。舞台劇とはそういうものだ。
ただ、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が特殊であるとするなら、“ヘドウィグ”というキャラクターは戯曲作家やシナリオライターが書いたものでなく、ジョン・キャメロン・ミッチェルとスティーヴン・トラスクがドラァグショーのステージで磨け上げながら創り出したこと。そして“ヘドウィグ”とミュージカルを彩るロックナンバーが、決して切り離せないくらい有機的に結びついていることだろう。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』© 2001 New Line Productions, Inc. © 2001 Fine Line Features. All rights reserved.
映画化権を手にしたプロデューサー陣は、何をおいてもジョン・キャメロン・ミッチェルが主演し、監督もしてくれることを大前提にしていたという。この奇妙でいかがわしく胸に沁みる“ヘドウィグ”の物語を、キャメロン以上に熟知している人間は地球上に存在していないとわかっていたからだ。
舞台上から人生を語る――という舞台版のスタイルは、映画ではツアー中の“ヘドウィグ”のステージMCという形で受け継がれる。そこに映像的なお遊びをたっぷりとまぶし、やがて「自分を受け入れてくれない世の中」に向けて歌い続けるエモーショナルな人間ドラマが浮かび上がる。映画版の『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は、お披露目となったサンダンス映画祭で晴れて観客賞に輝く。
有能なスタッフに支えられていたとはいえ、これほどの作品を、素人同然の状態で監督してみせたキャメロンも凄いが、キャメロンの才能を信じて監督を任せたプロデューサー陣の決意もまた、大きな功績として讃えられるべきだろう。
そしてキャメロンが“ヘドウィグ”として初めてパフォーマンスをしてから23年後、ついに日本で披露されたオリジナル・ヘドウィグの歌声は、もはや神がかって客席中に響いていた。キャメロンの血肉が注ぎ込まれた名曲の数々は、彼が54歳になった今もなお、奇跡的なピュアネスと類まれな輝きを放っていたのである。
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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