アンチ『ミッション・インポッシブル』、アンチ「トム・クルーズ」映画
「狙撃犯が、ライフルのスコープごしにターゲットを探す」というオープニングは、思いっきり『ダーティハリー』(71)だし、緩慢で地味なカーチェイス・シーンは、スティーヴ・マックイーンの『ブリット』(68)風味。黒人刑事エマーソンがシドニー・ポワチエにそっくりなのは、『夜の大捜査線』(67)へのオマージュか?クライマックスも、なぜかトム・クルーズがマシンガンを手放して、敵とボカスカ殴り合うだけという地味さだ。
そう、とにかく『アウトロー』は地味なのである。最先端のガジェットを駆使し、鮮やかなチームプレイで地球規模のクライシスを解決する『ミッション・インポッシブル』シリーズに比べると、“信じられるのは己の拳のみ”とばかりに、たった一人で敵と殴り合う本作は、あまりにも時代錯誤すぎる。いわば『アウトロー』は、アンチ『ミッション・インポッシブル』であり、トム・クルーズが自らたちあげたアンチ・トム・クルーズ映画。文字通り、現代ハリウッドに対する“アウトロー”的作品なのだ。
『アウトロー』(C) 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
しかしながら、オールド・ファッションなテイストに一部の映画ファンは熱狂したものの、多くの観客からは「古臭い」と一蹴されてしまう。続編となる『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』(16)も、世界興収1億6,200万ドルにとどまり、トム・クルーズ主演作としては期待外れの結果に。これ以上のシリーズの継続が困難となってしまった。
実はすでに、アマゾン・スタジオがスカイダンス・テレビジョン、パラマウント・テレビジョンと共同で『ジャック・リーチャー』のドラマを制作することを発表している。「ジャック・リーチャー役にはあまりにも身長が低すぎ!」と一部ファンから非難されたトム・クルーズは出演しない見込みで、おそらく原作のイメージに合致した俳優が選ばれることだろう。トム版『ジャック・リーチャー』シリーズを偏愛する筆者としては、残念至極なのだが。
『アウトロー』(C) 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
その後クリストファー・マッカリーは、『ジャックと天空の巨人』(13)や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)の脚本を手がけたあと、トム・クルーズの本家本元シリーズである『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18)の監督を担当。2021年公開予定の7作目、8作目も続投することがアナウンスされている。かつて「僕はアンチ・ハリウッド精神の持ち主だ」と公言した男は、ハリウッド最前線への帰還を果たしたのだ。
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
『アウトロー』
Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
2020年2月の情報です。
(c)Photofest / Getty Images