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『オリエント急行殺人事件』世界一売れた作家の小説を映画化する困難さとは!?

© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation

『オリエント急行殺人事件』世界一売れた作家の小説を映画化する困難さとは!?

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オールスターキャストで楽しみが増す真犯人探し



 原作である「オリエント急行の殺人」のプロットも、ミステリー小説界に衝撃をもたらした斬新なものである。殺人事件の真犯人を探すというミステリーを映画化するにあたり、最もキーポイントになるのはキャスティングかもしれない。意外な人物が犯人であり、その犯人を大物俳優が演じることによって、謎解きのドラマがインパクトをもつことになるからだ。その法則に従うと、たとえば横溝正史の金田一耕助シリーズ「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」などの映画化作品は、キャストを眺めれば真犯人は、ある程度バレバレである。


金田一耕助シリーズを監督した市川崑。原作なしのオリジナル脚本作品もいい!


 その点をルメットの『オリエント急行殺人事件』はどう対処したか? それは、オールスターキャストを揃えることだった。容疑者の対象となる、オリエント急行の乗客12人と車掌に、当時の錚々たるスターを配すことで、(原作未読の観客に)誰が真犯人か見当がつかないようにしたのだ。明らかに大スターではないキャストも何人かはいたが、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、ジャクリーン・ビセットら、豪華絢爛なキャスティングが、この作品に集結した。



『オリエント急行殺人事件』© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation


 ルメット版は、アームストロング家の幼女誘拐事件の回想から始まる。このオープニングこそ小説とは異なるものの、その後の展開は基本的に原作に忠実である。イスタンブールを出発し、フランスのカレーへ向かうオリエント急行が、大雪のために途中で立ち往生し、そこで乗客の一人が殺害される。犯人は乗客の中の誰かなのか……という、ポアロによる謎解きが描かれるのだ。原作では途中で、アームストロング家の事件との関係が発覚していく。登場人物の重要度などに多少変更はあるものの、ミステリー小説の歴史に燦然と輝く小説を映画化するにあたり、大きな改変は誰も望まないだろう。その結果、シドニー・ルメットの『オリエント急行殺人事件』は、まっとうな映画化作品として観客や批評家にも高い評価を受け、アカデミー賞6部門ノミネート(そのうちイングリッド・バーグマンの助演女優賞が受賞)を達成した。


 この『オリエント急行殺人事件』の成功をきっかけに、オールスターキャストによるクリスティー作品の映画化は、『ナイル殺人事件』(1978年)、『クリスタル殺人事件』(1980年)、『地中海殺人事件』(1982年)、『ドーバー海峡殺人事件』(1984年)、『死海殺人事件』(1988年)と続くことになる。



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