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『オリエント急行殺人事件』撮影現場と事件現場を同時に統括した、監督・主演ケネス・ブラナーの仕事術

© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation

『オリエント急行殺人事件』撮影現場と事件現場を同時に統括した、監督・主演ケネス・ブラナーの仕事術

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『オリエント急行殺人事件』あらすじ

エルサレムで教会の遺物が盗まれ、鮮やかな推理で犯人を突き止めた、名探偵のエルキュール・ポアロ。イスタンブールで休暇をとろうとした彼だが、イギリスでの事件の解決を頼まれて急遽、オリエント急行に乗車する。出発したオリエント急行でくつろぐポアロに話しかけてきたのは、アメリカ人富豪のラチェットだ。脅迫を受けているという彼は、ポアロに身辺の警護を頼む。しかしポアロはラチェットの要請をあっさりと断るのだった。


深夜、オリエント急行は雪崩のために脱線事故を起こし、山腹の高架橋で立ち往生してしまう。そしてその車内では殺人事件が起こっていた。ラチェットが12ヶ所も刺され、死体で発見されたのだ。乗り合わせていた医師のアーバスノットは、死亡時刻を深夜の0時から2時の間だと断定する。鉄道会社のブークから捜査を頼まれたポアロは、乗客たち一人一人に話を聞き始める。ラチェットの隣室のハバード夫人が「自分の部屋に男が忍び込んだ」と訴えるなど、乗客たちの証言によって、さまざまな事実が明らかになってきた。しかし乗客全員にアリバイがあり、ポアロの腕をもってしても犯人像は浮上しない。


ラチェットの部屋で発見された手紙の燃えかすから明らかになったのは、彼がかつてアームストロング誘拐事件に関わっていた事実だった。少女を誘拐し、殺害したラチェットが、復讐のために殺されたのか? 殺害犯は乗客の中にいるのか、それとも……?


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名探偵ポアロは、撮影現場での監督の役割に似ている



 「エルキュール・ポアロは監督のようにまわりの人物に指示を与える。ポアロは直感的に、それぞれの状況に適切で具体的な方法を選び、個別の取調べに必要なムードを作り上げるんだ。」


 これはケネス・ブラナーの言葉だが、彼が『オリエント急行殺人事件』の監督と主人公のポアロを演じた最大の理由が込められている。つまり殺人事件を解明するポアロは、撮影現場での監督の役割に近いということだ。


 たしかに、列車内で起きた密室型殺人事件で、容疑者となった他の乗客や車掌から真実を語らせようとするポアロの巧妙な捜査は、キャストたちから名演技を引き出そうとする監督の立場とリンクする。自ら主役を演じながら、相手役となる他のキャストを演出するというハードな過程も、この役では比較的、スムーズだったかもしれない。エルキュール・ポアロにはクライマックスでの謎解きという大きな見せ場があり、ここでのケネス・ブラナーの演技はまるで舞台の一人芝居のようだ。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでの豊富な経験が生かされた、朗々たるセリフ回しに聞き惚れるのは間違いない。ちょっと意地悪な言い方をすれば、自己陶酔の極みでもある。自分でポアロを演じ、このシーンがやりたかったのだという強い思いが伝わってきた。



『オリエント急行殺人事件』© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation


 監督としての経験豊富なケネス・ブラナーの場合、このように自ら出演するケースも非常に多い。監督デビュー作の『ヘンリー五世』でタイトルロールを演じ、その後の長編監督作13本のうち、4本で主役を、2本でメインキャストの一人を演じている。残りの7本では監督のみ、または一瞬の出演であった。近年こそ『マイティ・ソー』『シンデレラ』で監督専門のイメージが強いが、基本は「出たがり」なケネスである。うっぷんを晴らしたのがエルキュール・ポアロ役であったと推察できる。


 俳優として経験のある監督が、どこまで自分自身で演じる欲求があるのか。そこにはさまざまなパターンがある。



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