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『オリエント急行殺人事件』撮影現場と事件現場を同時に統括した、監督・主演ケネス・ブラナーの仕事術

© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation

『オリエント急行殺人事件』撮影現場と事件現場を同時に統括した、監督・主演ケネス・ブラナーの仕事術

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同じ俳優としての気づかいと、ときには遠慮も必要



 俳優がメガホンをとることで、演出される側はどう感じるのか。多くの場合、キャストたちは「同じ俳優として、演じる側の気持ちを理解してくれる」と口々に話す。映画の現場では俳優の待ち時間も長く、その間に緊張の糸が途切れる場合も多々ある。クリント・イーストウッドの現場は、1~3テイクで終わらせるテンポの良さが有名で、このあたりは俳優出身の監督の特徴かもしれない。


 逆に、監督が同じ俳優であることで、キャストに余計なプレッシャーを与えるとも考えられる。新作『ジャコメッティ 最後の肖像』まですでに劇場用長編を5本監督しているスタンリー・トゥッチは、「自分だったらこう演じる」などという見本は絶対に示さず、俳優たちに全面的に演技を委ねるという。俳優の気持ちを理解しつつ、あくまでも監督に徹することが大切なようだ。



『オリエント急行殺人事件』© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation


 では『オリエント急行殺人事件』のケネス・ブラナーは、演じる側にどう映っていたのだろう。殺害されるラチェットの秘書、マックイーンを演じたジョシュ・ギャッドは「俳優の不安感や自信喪失感を、ケン(ケネス・ブラナー)は自らも経験者として理解し、分かち合ってくれた」と振り返っている。ラチェットの使用人、マスターマン役のデレク・ジャコビは「演技していたかと思うと、その直後に自分を客観的に観察していた。視線と頭脳があらゆることを認知していた」とブラナーの主演と演出の並行作業を誉め称える。


 真犯人のわずかな心の迷いを見抜き、事件を解決するエルキュール・ポアロのように、ケネス・ブラナーはキャストたちを細かく観察し、繊細な演技を引き出していったのだ。



文: 斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。 



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配給:20世紀フォックス映画

© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation

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