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『トレインスポッティング』原作者を探せ!原作モノを成功に導く秘訣とは!?

(c)Channel Four Television Corporation MCMXCV

『トレインスポッティング』原作者を探せ!原作モノを成功に導く秘訣とは!?

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原作者I.ウェルシュの出演シーンを探せ!



 では、結果的に原作者ウェルシュの反応はどうだったのか。彼は様々な意見やアイディアは出しつつも、基本的に映画スタッフによる自由な脚色を許容してくれたようだ。もちろんプロデューサーたちは原作者と良好な関係を保つために様々な努力を惜しまなかったし、何よりも原作に対するリスペクトを忘れなかった。その証拠に、本作はエンドクレジットへ暗転すると一番真っ先にウェルシュの名前が登場する。 


 さらに本作の制作陣が採った戦略の中で何よりも優れていると思われるのが、「原作者を映画に出しちゃう」ということ。そう、『トレインスポッティング』には原作者のアーヴィン・ウェルシュが俳優として出演しているのである。それもカメオ出演ではなく、ちゃんと名前のある役柄で。 


 “マイキー・フォレスター”と名付けられたそのキャラは、前半部分でレントンに悪名高き“アヘン座薬”を手渡し(これを使用することでレントンは「スコットランドで最悪のトイレ」へ駆け込むことになる)、後半ではロシア人から手に入れたドラッグを巡ってレントン一味に危険な取引を持ちかけてくる。 


 原作者が出演しているということは、この映画が彼によって手堅いお墨付きを与えられているという証拠にもなる。不満のある作品にそう軽々と原作者が乗り出していくなんてないだろうから、少なくとも原作ファンにとって大きな安心材料となるのは間違いない。 


 世の中を見渡すと、原作者と映画の作り手の折り合いがつかずに苦慮してしまうケースも数多く見られる。作者の意図と反する内容になって、脚本の書き直しを迫られることもあるかもしれないし、プロジェクトそのものが暗礁に乗り上げることだってある。そしてよくあるパターンとして「映画は映画として脚色を許容しつつも、原作者として思うところがあるため一切プロモーションには協力しない」という場合もある。いずれのケースに当てはまったとしても作り手側にとっては悪夢だ。一方、この『トレインスポッティング』ではウェルシュ自身をキャスティングして、互いに一線を超えた仲間として一丸となることでその全ての障壁をクリアしたことになる。 


 もう一つある。確かに原作者ウェルシュは演技経験ゼロのど素人ではあったものの、計2回に及ぶ登場シーンでへらへらと笑みを浮かべるその表情は妙にリアルで、作品の空気にバッチリとはまっている。それもそのはず、実はこの物語自体、ウェルシュの半生や彼の身の回りの世界をベースにしており、いわば彼そのものが原作小説から飛び出してきた類稀なる存在といっても過言ではないのだ。 


 そんな彼に原作者/出演者として撮影現場へちょくちょく遊びに来てもらえるとしたら、脚本上の修正に関してその場でOKをもらったり、あるいは舞台となるエディンバラの文化や日常、ドラッグをめぐる当時の状況、若者たちのメンタリティ、さらにはスコットランド特有の方言に関してウェルシュに意見を求めることも可能となる。全ての流れがスピーディーになるのは確実。事実、「原作者を登場させちゃう」戦略はその成果を十分すぎるほど獲得して、90年代を代表する青春映画の金字塔の誕生に大きな成果をもたらしたのである。



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