2017.08.07
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原作とは異なる、極めて映像的な脚色
言うまでもなく、映画とは映像を通じて「物語る」もの。文学作品のように「文字」を通じて伝えるものとは大きく異なる。原作モノの中にはこのスイッチの切り替えが上手くできないために凡作、あるいはそれ以下に成り下がってしまうものも多いわけだが、こと『トレインスポッティング』に関して起こったことはこれと真逆の現象だった。つまり本作はアーヴィン・ウェルシュによる原作小説を極めて大胆な手法で翻案し、まるっきり映像的な作品へと脚色してしまったわけである。
実は、本作は映画化される前に舞台化されたこともあった。この時はもっと原作に近い内容に仕上がっていたのだとか。映画の作り手たちが言うには「舞台版は“劇場”という親密な空間に適した作品に仕上がっていた。だが我々はこれとは全く異なる、映画ならではの表現に挑戦してみたかった」。こうした率直な想いから、映画製作はまず脚本家による1年半に及ぶ脚色作業からスタートすることとなった。
医者としての肩書きも持つ脚本家ジョン・ホッジ(『 ザ・ビーチ』『 トランス』)の特徴は、原作の重要なシーンにも問答無用でメスを入れるし、自分のお気に入りシーンでも惜しげもなくカットするところにある。それほど彼の筆致は時に大胆で、例えば冒頭でセンセーショナルに登場する有名な「人生を選べ!」というフレーズも原作では中盤付近にやや控えめに登場するもの。あれほど疾走感に溢れた映画版の顔ともいうべきシーンへと昇華された裏側には、ひとかたならぬ彼の貢献があったのだ。
他にも、原作では各登場人物のモノローグが各章を織りなしていたものを、映画版では主人公レントンによる「一人語り」へとチェンジ。クライマックスの展開も大きく異なる。これらの脚色を果たして原作者のウェルシュが許してくれるのかどうか、作り手側にとってはヒヤヒヤものだったに違いない。