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『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』オスカーノミネートを果たした夫婦脚本家の執筆術

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』オスカーノミネートを果たした夫婦脚本家の執筆術

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「事実は小説よりも奇なり」なトゥルー・ストーリー



 2017年1月20日、ドナルド・トランプが「文句なく過去最大の聴衆」(大統領報道官による発言)に見守られながら大統領に就任したその日、サンダンス映画祭では一本の小さな映画がワールドプレミアを迎え、会場の割れんばかりの拍手に包まれていた。観客たちはこの低予算映画に、しかもコメディ界出身のジャド・アパトーが製作するコメディ・ドラマに、まさかこれほど胸を熱くさせられるとは思ってなかったはずだ。案の定、上映後には映画会社の熾烈な争奪戦がスタートし、最終的にはAmazonが1200万ドルを提示して獲得。これはサンダンス史に残る高額取引の一つとして話題となった。


 なぜ本作はこれほどの絶賛を受けたのか。まずはその多様性に満ちたストーリーが観客の琴線に触れたのは確実だ。パキスタン出身の主人公と白人女性が恋に落ち、やがて人種や宗教、文化の違いを乗り越え・・・。トランプ政権誕生に不安を抱えていた人たちにとって、このストーリーはその対極にある“愛すべきアメリカ”の姿をまざまざと思い出させてくれるものだった。さらに物語の中盤以降、ヒロインが突如として昏睡状態に陥るという展開は、文字にしてしまえば突拍子なく思えるが、その実、単なるお涙頂戴ものには収まらない、巧みな人間ドラマを生んでいく。この筆致が共感を呼んだのか、アカデミー賞では脚本賞に堂々ノミネート。いま最も乗りに乗っている作品の一つと言えるだろう。



 本作は脚本を共同執筆した夫婦(クメイル・ナンジアニとエミリー・V・ゴードン)の実話をもとにしており、クメイルは本作の主演も務めている。つまり、自らの体験談を本人が演じているのだ。同様のケースとしてはエミネム主演の『8マイル』や50セント主演の『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』などが真っ先に思い出されるが、本作もこれらに並び、映画界で稀に見るチャレンジングな一作となった。



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